《☆~ 山賊討伐(二) ~》
昼餉の品々が運ばれてくるのを待つ間、マトンは、デッシュ家の弓について、カカオマスから聞き出した一切を伝える。
話が終わるや否や、真っ先にショコラビスケが口を開く。
「つまり俺たちに託される仕事は、アタゴーの山中に入って、そのピロリンサンテツとかってえ獣族の率いてやがる山賊集団を探し出し、そいつらを打ち負かした上で、シロミさんの弓を取り戻すことですかい?」
「うん、おおよそ間違ってはいないけれど、重要なのは目的の達成だよ」
「そりゃあ一体どういう意味でさあ?」
これには、マトンに代わってキャロリーヌが答える。
「ショコラビスケさん、あたくしたちが第一に果たさなければならないのは、大切な弓の奪還ですわよ」
「がほっ??」
「相手を打ち負かさずとも、話し合いだけで済ませられるなら、それに越したことはありませんし、まずは穏便な交渉を求めましょう」
「おうおう、首領キャロリーヌ女史の仰る通りでさあ!!」
ようやく得心に至るショコラビスケだった。
「そうと決まれば、腹を十分に満たしておかねえとなあ。俺さまは、牙猪肉の燻製入り炊米飯を十人前食うことに決めたぜ!」
「戯け」
「がっほ!? キャロリーヌさんよお、今の一言は、まるでオイルレーズン女史が言ったのとそっくり同じような台詞でしたぜ?」
「あたくしも晴れて首領になりましたから、今後は少しばかり厳しくしなければと思います。ですからショコラビスケさん、食べ過ぎて動けなくなってはいけませんわよ!」
「がほほ……」
「あははは。新しい首領から早速、一本取られてしまったね?」
「おう、まったくその通りでさあ」
ショコラビスケは、渋々ながら食事の量を減らすという指示に従う。
昼餉を終えて食堂の外に出たところ、パースリが、一枚の羊皮紙を懐から取り出して、キャロリーヌに手渡す。
「アタゴー山中の図です。サイフォン男爵から教わった情報に基づいて、ピロリンサンテツの集団と遭遇できそうな地点を記してあります」
「ヴィニガ子爵さん、ありがとうございます」
「どう致しまして。それともう一つ、道具があります」
パースリは、黒い紙片のような代物をシロミに差し出す。
「知り合いの錬金術者から貰った魔昆布の護符というお守りの一種です」
受け取ったシロミが、怪訝そうな表情で尋ねる。
「私がお預かりするのですか?」
「そうです。是非とも、あなた自身とキャロリーヌ嬢を守るためにお使い下さい」
「どのように扱うのでしょうか?」
「相手が放ったものを曲げる働きがありますから、石でも槍でも、飛んできたすべてを弾き返せばよいのです」
「分かりました」
ここにマトンが口を挟んでくる。
「使い方を理解するために、一度だけ練習しておく方がよさそうだね。おいショコラ、適当な石をシロミ嬢に向けて投げてくれるかい」
「おうよ!」
「シロミ嬢は、飛んできた石の正面に立って、その護符を掲げるのだよ?」
「了解しました!」
地面の小石を一つ拾ったショコラビスケが、少し離れてから問い掛ける。
「シロミさんよお、それじゃ始めますぜ?」
「はい、いつでもどうぞ!」
ショコラビスケが勢いよく石を放ち、対するシロミが咄嗟に護符を掲げる。
すると、高速で一直線に飛んできた石が急激な曲線を描き、ショコラビスケの後頭部に激突する。
「がほっ!!」
ショコラビスケは、大きな衝撃を受けて地面に伏した。
一部始終を見守っていたマトンがシロミに話す。
「今のやり方でいいよ」
「はい。でも、ショコラビスケさんが倒れてしまいました」
「彼の身体は人族よりも相当に頑強だから、きっと大丈夫だろう」
「そ、そうですか……」
戸惑いを隠せないシロミである。
彼女の心配とは裏腹に、ショコラビスケがすぐ起き上がった。
「練習だから、軽く投げればよかったんだよ?」
「マトンさんよお、そいつを先に言って下せえよ。いつもの調子で、つい力を込め過ぎちまったぜ。がほほ~」
「それもそうだね。うっかりしていたよ」
マトンは笑いながら、今度はキャロリーヌに言葉を掛ける。
「準備は万端のようだから、いよいよ出立の刻限だね?」
「はい!」
こうしてキャロリーヌが率いる少数精鋭の探索者集団が、マトンとパースリに見送られ、意気揚々とアタゴー山へ向かった。




