《☆~ 山賊討伐(一) ~》
朝餉を終えて少しばかり後、キャロリーヌは、ショコラビスケ、キャトフィシュおよびシルキーを連れて、エルフルト共和国の大統領公邸を出立した。
昨晩マトンから伝書が届き、その文面には、アタゴー山麓西門食堂で合流して昼餉を済ませた上で、獣族の山賊を討伐する任務に就いて貰いたいという旨が簡潔に記載されていた。
エルフルト南部国境門へ向かって進む馬車の中、ショコラビスケが嬉々とした顔面で口を開く。
「一体どういう経緯で山賊討伐をすることに決まったのかは知る由もねえが、いよいよ俺たちの出番ってえ訳だぜ。がっほほほ!」
「ショコラビスケさん、相手はお強い獣族ですので、くれぐれも油断なさらないよう、お気をつけになって下さいまし」
「首領キャロリーヌ女史よお、この俺さまだって、なかなかにお強い竜族の中の男ですぜ?」
「その過信こそ、命取りになるかもしれませんから」
キャロリーヌは、穏やかな口調でショコラビスケを諌めながら、胸の内では、「このような時、先代の首領なら《戯け!》と一喝なさっていたはずですわねえ」と、オイルレーズンのことを思い出すのだった。
一行がエルフルト南部国境門を通過し、ローラシア北西部国境門に入ると、こちらの長を務める二等護衛官のフィッシュ‐チャウダがキャロリーヌの姿に気づき、急ぎ駆け寄ってくる。
「月系統魔女族におかれましては、数々の理不尽でしかない嫌疑が掛けられ、極めて遺憾でしたが、この度ようやくすべての悪い噂が消え失せまして、祝着の至りと存じます」
「ありがとうございます。お母さまと妹さんはお戻りになりましたのかしら?」
「お陰さまで、二人とも無事にございます。皇国中央で大赦の実施があり、牢獄塔に入れられていた方々も釈放されたと聞き及んでいます。本日ご一緒でないようですが、オイルレーズン女史は、ご息災でおられますでしょうか?」
「誠に心苦しい限りのご報告になりますけれど、先日お亡くなりです」
「ええっ、それは本当でしょうか!!」
「はい」
「まさしく寝耳に冷や水とは、このことに他なりませんでした。心より、お悔やみ申し上げます……」
悲愴な面持ちのフィッシュに別れを告げ、キャロリーヌたち一行は、再び馬車に乗り込んで、ローラシア北西部国境門を後にした。
・ ・ ・
パンゲア帝国の中央からきたマトン、パースリ、シロミがアタゴー山麓西門の検問所を通過して、ローラシア皇国の領土に入ったところ。キャロリーヌたちと合流する取り決めである六つ刻まで、二十分刻を残している。
パースリが、懐から取り出した刻限計を眺めながら話す。
「しばらく待たなければならないようです」
「そうだけれど、おそらくキャロルたちも、少なからず早めに到着するだろう」
「どうして、そのような推察ができますのでしょうか?」
シロミが単刀直入に問い掛けた。
その一方で、マトンはゆっくり歩きながら答える。
「月系統魔女族というのは刻に敏感で、誰かを待たせる行為を嫌うのだよ。つまりキャロルは、僕らが先にきて、自分たちの到着を待ち侘びているのではないかと気掛かりになり、約束している刻限より十五分刻ほど早く目的地に到達できるように、うまく見計らっているだろうからね」
こうして三人は、アタゴー山麓西門食堂の外に設置されている長椅子に座って待つ。
マトンの言葉通り、それから二分刻も過ぎないうちに、キャロリーヌたちを乗せた馬車がやってきた。
シロミが驚きの気色を見せながら話し掛ける。
「首領キャロリーヌ女史、お早いご到着ですね?」
「あたくしは、マトンさんたちが先にきて、首を長くして待ち侘びておられるのではないかと、少なからず気掛かりだったものですから、こうして十五分刻ばかり早く到着できるように考えて出立しましたのよ」
「マトン殿が仰せになった通りですね。私は本当に感服致しました!」
「兎も角、昼餉にするとしよう」
「おうよ!」
合流を果たした一行は、食堂の中へ進み、早速、アタゴー山麓西門の名物ローラシア料理として広く知られる牙猪肉の燻製入り炊米飯と、冷たい古古椰子果汁を注文する。




