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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART9 新しいパンゲア帝国王室》少数精鋭の探索者集団
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《★~ 新しい首領さま ~》

 四日間、マトンの容態は、なんら変化を見せなかった。意識の戻るきざしがないけれど、彼の身体にキャトフィシュの生血を少しずつ移す処置の効果があり、生命ライフだけは辛うじて維持できている。

 キャロリーヌたちは、気を揉みながら、マトンの回復を願って過ごした。


 昼餉を済ませた後、重々しい雰囲気の漂う食堂で、熱い生姜ヂンヂャ汁茶(‐ティー)を飲んでいたところ、キャトフィシュの携帯している緊急事態イマーヂェンスィ光線(‐レイ)という魔法具が、唐突に黄色の輝きを失った。

 ショコラビスケが真っ先に口を開く。


「おうおう、どうして光が消えちまったのでさあ!?」

「もしや!!」


 キャロリーヌが、胸中にぞわぞわと悪い予感を抱いてしまった。

 一方、キャトフィシュは平然とした表情で話す。


「これが輝かなくなったのは、死に瀕していた父が、ようやく回復へ向かった証に相違ありません」

「あら、そうしますと、マトンさんがお目醒めになったのですわね!」

「それは定かではありません。兎も角、確認しましょう」

「分かりましたわ」


 キャロリーヌが席を立った。


「多人数で押し掛けるとお身体に障るおそれもございましょうから、私はこちらで待機して、マトン殿が快癒なさるのを祈っております」

「きゅい」


 シロミとシルキーは、気を利かせて、同行の辞退を申し出た。

 こうしてキャロリーヌがショコラビスケとキャトフィシュを伴って、急ぎ第一医務室に赴いた。

 マトンは、寝台ベッドに横たわったままだけれど、しっかりと目を開いており、弱々しい声でつぶやく。


「ディアにいさん、ヴァニラビスケも……」

親爺ファーザ、僕は息子のキャトフィシュですよ」

「俺さまはヴァニラビスケの息子、ショコラビスケですぜ」

「そうだね。意識が戻ったばかりで、つい間違ってしまったよ。あはは」


 マトンは、身体を起こそうとするけれど、うまく力を出せなかった。


「まだ安静にしておられるのがよいですわ」

「うん、キャロルの言う通りだよ。それはそうと、僕は、どのくらい意識を失っていたのだろうか?」

「四日ですのよ」

「たったそれだけかい。まるで数十年も眠ったように感じるよ」


 今のマトンは、顔の皺が沢山できて、髪が少なからず抜け落ちており、本当に数十歳を重ねて、すっかり老人のように変貌している。

 そんな姿を目の当たりにしたキャロリーヌたちは、思わず涙を溢す。

 ここにマカレルがやってきて、速やかに診察した。


「貧血が治まり、死に瀕する事態は改善されました」

「それはよかったですこと!」

「おうマトンさんよお、助かったみたいですぜ!」

「皆さまのお陰です。僕からお礼を申し上げます」


 自由に動けないマトンに代わって、キャトフィシュが深々と頭を下げる。

 マカレルが、今後の治療方針について説明した。もう生血を移す処置は不要だけれど、滋養分が豊かな食事を、少しずつ無理なく摂らなければならない。


 ・   ・  ・


 マトンが目醒めてから三日が過ぎ、自力で立って歩けるまで回復した。

 しかしながら、五十歳の老人になっているため、以前のように俊敏な動作をすることなど、とうてい叶わない。


「僕は今日で剣士を引退するよ。そして、もう探索へ出向く体力すら持ち合わせていないし、集団パーティから抜けざるを得ない……」


 マトンが、魔獣骨剣をキャトフィシュに譲り渡した上で、この先は、剣術の指導者および探索者集団の相談役を務めることに決めた。

 キャトフィシュの方は、これまでの十年間、鍛錬を積み重ねていたので、大陸一とまでは呼べないにしても、既に立派な剣士だと言えよう。

 ショコラビスケがマトンに問い掛ける。


「俺たちの新しい集団は、誰が首領キャプテンになるのですかい?」

「それはキャロルに決まっているさ」

「え、あたくしですの??」

「オイルレーズン女史の後を継ぐ者は、キミの他にいないからね」

「きゅい!」

「この俺さまも、それこそ最善だと思いますぜ。がっほほほ!」


 シルキーとショコラビスケが喜んで賛同した。


「あらまあ、どうしましょう……」


 戸惑うキャロリーヌを前にして、シロミが言葉を掛ける。


「私も全身全霊でお支えします」

「もちろん俺もでさあ。首領キャロリーヌ女史、よろしく頼みますぜ!」

「はっ、分かりましたわ! 皆さん、しっかり励みましょう」


 キャロリーヌは腹を据え、力強く号令を発した。

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