《★~ 呪詛されるメルフィル家(七) ~》
老魔女が物語を中断し、キャロリーヌに問い掛ける。
「さて、あたしの話を、まだ続けて聞きたいかのう」
「もちろんです。とても気になりますもの」
「そうかそうか。じゃが、ここから先の話は、メルフィル家が呪詛されてしまうという、キャロルにしてみれば、とても辛い逸話になる。それでも、まだ聞くつもりはあるか?」
「えっ、呪詛!?」
「ふむ」
「あたくしのお家が、メルフィル家が、呪詛……」
「そうじゃ、呪詛される。それでも少しばかりの勇気を出し、続きを聞いてみようと思う気はあるかのう」
「はっ、はい。あたくし、聞いてみたく、思いますわ」
怯えるような目で答えるキャロリーヌ。その声が震えているのだった。
「では続けるとしよう。あたしはメルフィルの邸に、魔の雰囲気が漂っておるのを感じ取った。グリル殿たちに尋ねてみると、その前の日に、邸に仕える女性のほとんどが原因不明の発熱を起こし、普段通りには働けなくなったという。あたしゃ邸内に異変があると確信して、そこら中を調べ回った。それで、女中たちが使う女性浴場に、呪いが仕掛けてあるのを発見した」
「ええっ!?」
「脱水症状という魔法じゃよ。その呪いを受けてしまうと、身体の表面から水分が蒸気となって漏れ出し、十日ばかりで死に至る」
「まあ、なんておそろしい魔法なのでしょう!」
キャロリーヌは、恐怖のために顔を歪め、身体をブルリと震わせた。
しかしながら、目の前に座っている老魔女は、とても落ち着いた口調で話す。
「ふむ。おそろしいのじゃが、それでも手遅れということではなかった。彼女たちが呪詛を受けてから日が浅く、そのことに加えて、あたしの手元には丁度、幻の秘薬があったからのう。ふぁっははは!」
「えっ、幻の秘薬というのは、もしかするとそれは、金竜逆鱗と呼ばれる品目のことかしら!?」
「ふぁっはは。そうじゃ、そうじゃとも! あたしはアイスミント山岳で、若い金竜と一戦を交え、その極上等品を得たのじゃよ」
「まあまあ、よろしかったこと!!」
「いいや違う!」
「え!?」
「あ、違うこともないか? いや、やはり違うかのう……」
オイルレーズンが自身の発言に向け、自身で疑問を投げ掛けている。
いくら忍耐することに慣れているキャロリーヌでも、このようにハッキリしない言葉を聞かされては、さすがに納得がいかない。
「お婆さん! 違うのか、違わないのか、一体どちらでしょうか!」
「ふむ。あえて言うのなら、どちらともということになるかのう。実は金竜と戦った際、面子が二人、命を落とした……」
「ええっ!!」
「屈強な竜族の男が二人とも死んだのじゃ。金竜の炎に焼かれてな」
「まあ!!」
凶竜といえどもまだ若ければ、成長し切った個体より体躯が小さく、比較的に戦いやすい。ただ、それでも親の竜から離れ、既に独り立ちしている金竜ともなると、やはり手強い討伐対象であることに違いがなく、ほんの少しの失敗でも命取りとなる。
先の戦いでは、辛うじて逆鱗を奪ったものの、相手を倒すまでには至らず、猛反撃の業火を浴びた二人の竜族が丸焼きにされてしまった。残ったオイルレーズンと人族の剣士は、その激しい炎の攻撃を巧みにかわし、命からがら逃げ延びたのだという。
結果として、百戦錬磨の精鋭四人からなる集団が挑んだ金竜討伐は、最低の目的を達成できたけれど、事実上は敗戦に終わったのである。




