《☆~ 不意にきた客人 ~》
テリーヌ高原へ出掛けていたキャロリーヌたちが、大統領公邸に戻った。
第一迎賓室へ向かう途中、政務官の女性が、静かな口調で「お客人の訪問がございました。あなたさま方との面会を希望されておられ、待機なさっています」と教えてくれた。
「あら、どなたかしら?」
「私は一切存じておりませんので、詳しい経緯につきましては、大統領夫人からお聞き下さいまし」
「分かりましたわ」
第一迎賓室の中、若い女性が一人、席に座っている。この不意にきた客人が見知らない者なので、キャロリーヌは、困惑の表情を隠し切れない。
すぐにチュトロが姿を現し、事情を話してくれる。
「こちらのお譲さんは、あなた方に大切なご用向きがおありとのことで、はるばるローラシア皇国からお越しになりました。お義姉さまの紹介らしいのよ」
「え、首領さまと面識がおありですの!?」
客人が席を立ち、こちらに向かって一礼した。
キャロリーヌたちも軽く会釈してみせたところ、その者が早速、口を開く。
「シロミ‐デッシュと申します。最初に、謝罪の言葉をお聞き入れ下さい」
「あらまあ、謝罪ですって??」
「はい。覚えておられないかもしれませんけれど、以前、私は歩むべき道を大きく踏み外してしまったがため、あろうことか、あなたさまとオイルレーズン女史を標的として襲撃を働きました」
「えっ、そうですの!?」
黙って聞いていたマトンが口を挟んでくる。
「襲撃というのは、もしかすると、第八月の一日目、ローラシア東部国境門に通じる道中でのことかな?」
「はい。私は山賊集団に加わり、この上ない愚行を犯した一人です」
「そうでしたか」
キャロリーヌが見つめたので、シロミは恥ずかしそうな表情をしながら、折り畳まれた羊皮紙を懐から取り出す。
「ラムシュレーズンを名乗るお方がお書きになりました。けれども、あのお方が偉大な魔女族、オイルレーズン女史ではないかと私は推察しておりました。先ほど大統領夫人が、この伝書をご覧になりましたところ、紛れもなく、オイルレーズン女史の筆跡に相違ないと判明した次第でございます」
シロミは、羊皮紙を開いて、キャロリーヌに差し出す。
それには、「キャロルや、マトンたちと協力して、シロミ‐デッシュを手伝ってやるのじゃよ。そうした上で、弓使いのシロミを新しく面子として迎え入れ、少数精鋭の探索者集団を目指すがよい」と記されていた。
キャロリーヌが読み終えて口を開く。
「これは確かに、首領さまのお書きになった字ですわ」
再びマトンが横から口を挟む。
「シロミ嬢、一つお尋ねしてもよいでしょうか」
「なんなりとどうぞ」
「あなたは捕らえられて、皇国中央の牢獄塔に入っておられたと思いますけれど、大赦が実施されたのでしょうか?」
「はい。一昨日、私たち罪人のすべてが釈放されました」
「そうしますと、首領さまも首を跳ねられたりしないで、無事に牢獄塔を出られましたのね!」
「オイルレーズン女史のことでしたら、ホイップサブレーというご親友の営まれている魔法具の工房へお向かいになりました」
キャロリーヌは、オイルレーズンが今なお存命と思い、少しばかり瞳を潤ませながらシロミに頭を下げる。
「お教え下さり、ありがとうございます」
「いいえ、どう致しまして」
「それであたくしたちは、どのようにして、シロミさんをお手伝いすればよろしいのかしら?」
「デッシュ家が先祖代々受け継いできました弓の奪還、およびデッシュ家の再興なのですけれど、このように厄介なことをお頼みするなんて、図図しいにもほどがあるかと思いまして、恐縮の至りです」
シロミは、申し訳なさそうな表情で述べた。
これに対して、キャロリーヌが穏やかな口調で話す。
「あたくしたちは図図しいだなんて思ったりしませんわ。ラムシュレーズンさんのお言葉は、あたくしの思うところと同じですから、恐縮なさる必要なぞ、砂粒の大きさすらもありませんのよ」
「なんと心根のお優しいご令嬢なのでしょう!」
「いえそんな……」
シロミに凝視されて、今度はキャロリーヌが恥ずかしそうに下を向く。




