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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》ラムシュレーズンの断罪
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《★~ アニョンピクルの暗躍(一) ~》

 第一迎賓室でキャロリーヌたちが引き続き、高級な碧色茶を飲みながら、他愛のない雑談をしていた。

 先ほど大声を出したショコラビスケは、落ち着きを取り戻したけれど、胸の奥底では、まだ怒りが収まり切っていない。


首領キャプテンオイルレーズン女史、俺はデミタスを懲らしめてやりたいでさあ」

「食材に腐敗ディケイの魔法を施した張本人は確かに悪いのじゃが、裏で糸を引いておるはずのベイクドアラスカこそ、格段に罪が深いと言えよう」

「だったらベイクドアラスカさんも一緒に懲らしめてやりましょうぜ?」

「あたしらは今、少なからず窮地に立たされておるのでな、しばらくは黙って傍観を続けるのが得策じゃよ」

「それもそうですがねえ……」


 突如、政務官の女性が姿を現し、昼餉の準備が整った旨を伝えてくれた。

 彼女にいざなわれて、一同が食堂に移動したところ、大統領(ファースト‐)夫人レディのチュトロ‐ハタケーツと、医療大臣を務めるマカレル‐ザクースカが食卓の席にいた。

 チュトロがオイルレーズンの顔面を見るや否や、さも悲しそうに口を開く。


「お義姉ねえさま、ローラシア皇国へお帰りなさろうとされたのに、あろうことか、入国拒否という厄災事に遭われたそうにございますね。そうなってしまわれた事態は遺憾でありますけれど、私たちが全身全霊で支援を致しましょう」

「それは大いに助かるわい。ふぁっはは!」

「兎も角、お義姉さま、並びに皆さま、お座りなさって下さい」

「ふむ。そうするとしよう」


 四人が着席して、シルキーは食卓の傍にある止まり木に乗った。

 ショコラビスケが率直に尋ねる。


「昼飯はなんですかい?」

「本日は鴨しゃぶ鍋を用意させています」

「おうおう、そいつはすげえぜ!」


 ショコラビスケはもちろんのこと、キャロリーヌやマトンも大いに喜んだ。

 シルキーには、鴨肉が生のままで与えられる。


 食後、一同はお茶を飲みながら会談を始めた。

 マカレルがキャロリーヌに問う。


「ラムシュさんはお健やかでしょうか?」

「なかなかに健康なご様子で、ローラシア皇国の中央へ向かわれました」

「それはなによりですね」

「はい」

「わたくしは、職務がありますので失礼します」

「お気をつけて」


 マカレルは急ぎ医療省へ向かった。

 彼女が立ち去るのを見届けて、チュトロが口を開く。


「中央情報局から大統領府に上げられる報告には、ローラシア皇国の内情も多く含まれています」

「ほほう。なにか機密を聞かせて貰えるのじゃろうか?」

「ええ、まったくその通りです。今から私が話します仔細については、どうか他言無用に願います」


 中央情報局の長官キャプテンは、他でもなくチュトロ自身だけれど、たとい相手が身内でも決して正体を教える訳にいかないのが、中央情報局の戒律である。

 彼女が声を落として話を続ける。


「お義姉さまは、アニョンピクルという純水ウォータ系統の魔女族が皇国宮廷に紛れ込んでいる事実を、ご承知でいらっしゃいますか?」

「むろん知っておるとも」


 オイルレーズンは、かつてパンゲア帝国王室の後宮で第二女官の地位ポジションにあったアニョン‐ピュアレイが、薄薔薇花(ミスティロウズ‐)飛竜ワイバンに乗って一等官馬車を襲撃しにきた事件について、手短に説明した。

 馬車は大破してしまったけれど、アニョンの作戦そのものは失敗フェイリャに終わり、皇国宮廷に連行された彼女が、「すべてパンゲア帝国王室を牛耳るベイクドアラスカが練った策謀で、逆らうと首を跳ねられてしまうため、気乗りしないまま命令に従わざるを得なかった」などと打ち明けた上で、ローラシア皇国に協力することを約束したという一件である。


「アニョンは、皇国に送り込まれた密偵スパイを装い、逆に帝国から機密を得る役割を担うと誓い、つまり、二重(ダブル‐)諜報員エイヂェントとして働いておる」

「いいえ、それこそ()()()姿()です」

「な、なんじゃと!?」


 オイルレーズンは、手にしていた茶碗カップを危うく落としそうになった。

 その一方で、チュトロが眉をひそめて密談を続ける。


「アニョンピクルは、二重諜報員を装っていながら、ありもしない帝国の機密をさも真実であるかのように皇国宮廷へ伝えるだけでなく、こっそりと宮廷内の情報を帝国に漏らしています」

「なんと、彼女は三重トリプル諜報員(‐エイヂェント)じゃったのか!?」

「誠に残念ながら、中央情報局はそれが真実だと認識しているようです」

「おお、うまうまとしてやられたわい!!」


 苦虫を噛みような表情を隠し切れないオイルレーズンである。

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