《★~ 呪詛されるメルフィル家(六) ~》
メルフィル公爵家の談話室へと迎え入れられた魔女は、開口一番、今まで託してきた孫娘のことを尋ねる。
「ラムシュは元気にしておるかのう?」
「ああオイルレーズンさん! 実は、あなたのお孫さんが、大変なことになってしまいました!」
マーガリーナが頭を下げ、涙を流しながら咽び声で答えるのだった。
泣き崩れている公爵夫人の横顔を、グリルはすぐ傍で黙ったまま眺めている以外にどうしようもなかった。公爵の表情も、マーガリーナと同じように苦痛で満ちているのである。
オイルレーズンには、グリルが別のもっと重い苦悩を抱えているように思えたけれど、それについては口に出さず、引き続きマーガリーナに問い掛ける。
「ラムシュが、どうしたというのじゃ?」
「つい二日前のことです。昼間、女性の煙突掃除人が二人でこの邸にやってきて、調理場の煙突を掃除したのですけれど、その者どもは魔女族だったのです。ラムシュちゃんの健康を祈ると偽り、奇妙な詠唱を発し、その結果、あの赤ん坊は白い仔馬の姿になってしまいました。そして魔女がまた別の詠唱を発したために、私と女中のアラモードは失神させられました。しばらくして気がついた時には、魔女たちも、白い仔馬すらも、いなくなっていました。あちこちを使用人たちに捜させていますけれど、仔馬はまだ見つかりません」
「ふむ。ここへやってきた魔女は、紛れもなくパンゲア帝国王の第一王妃に違いない。密偵を放って探らせ、ラムシュが生きておることを知り、この半月近くを掛けて捜し回っておったのじゃろう。あたしが隠密の魔法を使って魔女の存在を分からぬようにしたがために、さぞかし苦労したはず。しかしながら最後はとうとう、この邸を嗅ぎつけおって、側近の者を引き連れ、二日前に悪事を働いたということじゃな。あのオリーブサラッドという魔女も、なかなかに侮れぬ輩じゃのう」
「ああオイルレーズンさん、私が不用意にも、悪い魔女どもを居室に迎え入れてしまったがために、そのような取り返しのつかないこととなり、どうお詫びすればよいのやら……」
マーガリーナは話しながら、また涙を流すのである。
オイルレーズンは優しく答える。
「いいや違う。マーガリーナの落ち度ではない。悪魔女が考えつく邪な企みには、人のよい人族ならたいてい、いとも簡単に騙されてしまうからのう。白い仔馬に変えられて姿を消してしまったというラムシュレーズンは、このあたしが必ずや捜し出すつもりじゃ」
「そうですね。きっと近いうちに見つかりますわ」
「ふむ。それよりもキャロルは、あの子はどうしておる? 息災かのう?」
「ええまあ、キャロリーヌはその日、幸いにも健康診断の日でしたものですから、無事に過ごしておりまして。あ、あぁ顔を、どうか見てやって下さいまし」
マーガリーナは急ぎ公爵夫人室へゆき、赤ん坊を抱いて戻ってきた。
「よく眠っていますわ」
「おお、愛くるしいのう」
オイルレーズンはそう言ってから、グリルの顔を見た。
その公爵が、なにか話したそうな表情を見せているけれど、オイルレーズンは、そっと首を横に振るのだった。




