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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》ラムシュレーズンの断罪
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《★~ 中央情報局による調査 ~》

 自然に生きる動物たちは、邪悪な魔の気配を敏感に嗅ぎ取り、魔獣が通ったところから遠くへ逃れる傾向にあり、ずっと姿を見せていない。木の実や根菜は、魔獣の放つ瘴気のせいで強い毒を帯びてしまっており、それらを食せば、たとい身体に少なからず毒の耐性を備えていても、生命ライフに危険が及ぶという。

 このため、キャロリーヌたち一行は、山中にいるにも拘わらず、山の幸をまったく得られなかった。すっかり空腹に苛まれているショコラビスケは、足が岩のように重く、冗句ヂョウク苦情クレームの言葉を吐く元気を失った。

 先頭を警戒しながら歩くマトンが、声を落としてオイルレーズンに話し掛ける。


首領キャプテン、そろそろ獲物が現れてもよさそうですね」

「そうじゃのう」


 魔の元凶カルプリトを討伐したので、この先は、食材にできる通常の獣と遭遇する機会チャンスは十分にあるはず。

 キャロリーヌが率直に問う。


蒼色月ブルームーンの害悪を広めた女官というのは、一体どのようなお方かしら?」

「帝国王室にミルクドとアニョンがおらぬ今、あたしの知る限り、そのような悪事を働くと考えられるのは、おそらく第三女官のデミタスじゃろう。黄土オークル系統の魔女族でな、自然改変の魔法スペルを得意としており、世間に悪い噂を広めることも容易いに違いない」

「本当に困りますわねえ……」


 心根の優しいキャロリーヌでも、自分たち月系統魔女族が厄災事に見舞われている事態トラブルを、さすがに迷惑と思わざるを得ない。

 やがて峠を越えてエルフルト共和国に入り、夕刻を迎える頃、鹿と遭遇して捕らえ、ようやく食事を摂れた。皆が元気を取り戻し、下り坂を黙黙もくもくと進んで、麓の近くで見つけた宿屋に泊まる。


 夜が明けると、簡素でも豪華でもない朝餉を済ませた上で、貸し馬車に乗り、エルフルト共和国の中央を目指す。

 五つ刻半の頃、大統領プレズィデントの公邸に到着し、一行が特別な部屋「第一迎賓室」に通された。女性の政務官パーラメントが、丸壺ポットと五つの茶碗カップを載せた台車を運び込み、一礼してから立ち去る。

 キャロリーヌが碧色茶(ブルー‐ティー)を皆の茶碗に注いでいたところ、早速、ハタケーツ大統領が姿を現し、血色のよい顔面で話し掛けてくる。


「やあ姉上、並びに勇敢な探索者イクスプローラの諸君、ようこそお越しになった!」

「コラーゲンや、済まぬことじゃが、また世話になるよ」

「いえいえ、一切お気になさらなくてよいです」

「時に、この国でも蒼色月の害悪とやらが、広まっておるのじゃろうか?」

「誠に残念ながらその通りです。しかし、根も葉もない事実無根に踊らされることなく、軽率な言動を慎むようにと要請する大統領令に署名サインしました。エルフルト共和国民は、冷静な頭で考えさえすれば、なにが真実であって、なにが偽りなのか、必ずや見抜けるはずだ。はははは」

「そう願いたいものじゃわい」


 オイルレーズンが笑みを浮かべ、碧色茶を一気に飲み干した。

 一方、ハタケーツ大統領は、今の時点で大統領府に報告が上がっている、中央情報局による調査について説明を始める。


「各地に月系統の魔女族を蔑む悪い噂を広めている張本人は、パンゲア帝国王室の第三女官、デミタス‐サイフォンだ」

「やはりそうであったか」

「悪魔女のデミタスは、まずドリンク民国に赴き、盗みを働いた上で、その犯人が月系統魔女族だと街中に吹聴して回ったという」

「ふむ」

「その後もエルフルト共和国や他国で同じような悪事を働き、特に酷いのは、アタゴー山麓西門食堂で食材を腐敗させ、多くの者にお腹痛(スタマクエイク)を患わせた悪行だ」


 突如、ショコラビスケが立ち上がって大声を出す。


「がほーっ!! そんな非道、許せねえぜ!」

「ショコラや、落ち着くがよい」

「おっとぉ、済まねえ! つい興奮しちまったぜ。がほほほ」


 ショコラビスケは、頭を掻きながら席に腰を下ろした。

 今度はキャロリーヌが遠慮がちに口を開く。


「アマギー山で動物を魔獣化したのも、デミタスさんなのでしょうか?」

「それに関しては今なお調査の途上だが、中央情報局の面面は、十中に九、デミタスの仕業だろうと、まあ断定に近い判断を下しているらしい」

「そうなのですね……」

「では姉上、皆さん、ごゆっくりと滞在して下さい。僕は出掛けます」


 説明を終えたハタケーツ大統領は、早足で部屋を後にする。

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