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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《★~ 蒼色月の害悪(四) ~》

 追ってくる二人の一方が、二十日ばかり以前、エルフルト共和国で遭遇して言葉を交わした者だと、ブイヨン公爵は気づいている。

 しかしながら、あえて話す必要はないと思い、デセールと機械人形を伴って歩き続け、借りている馬車の前で立ち止まった。

 すると、予想した通り、背後の男が声を発する。


「グラッパ村でお会いしましたね。覚えていらっしゃいますか?」

「……」


 ブイヨン公爵は黙ったまま、怪訝そうな表情を見せ、パースリとロッソの顔面を交互に眺めてから、ようやく口を開く。


「このような場所で再会とは、まさに奇遇と言えましょう」

「はい。その折は、名前すらお伝えできませんでした。ボクは全世界ユーニヴァース学者(‐スコラ)のパースリ‐ヴィニガと申します」

「私は流離いの(ワンダリング‐)錬金術者アルケミスト、アントレ‐ブイヨンです」


 公爵が、ようやく表情を柔らかくした。

 パースリも穏やかに微笑み、率直に申し出る。


「ご無礼とは承知の上で、お尋ねしたいと思います」

「なんでしょうか」

「他でもなく、あなたが機械人形をお連れになっている目的です」

「簡単に答えますと、錬金術の発掘になります」

「そうですか」


 ここにジャムサブレーが姿を現す。

 ブイヨン公爵が、パースリに向かって問い掛ける。


「もう一人、お若い婦人レディがお越しになりましたが、お知り合いでしょうか」

「あ、はい。こちらは、ドリンク民国の環境庁で副長官(サブキャプテン)をしておられます、ジャムサブレー女史です」


 初対面の二人が互いに名乗り、そうしてブイヨン公爵が尋ねる。


「ところで、私にご用向きでも?」

「ええ、ご無礼とは思いますが、一つお尋ねさせて頂きたいのです」

「なんでしょうか」

「そちらの機械人形は、どのような目的が」


 突如、背後で「こら、お前たち!」と怒鳴り声が上がり、ジャムサブレーの言葉が遮られてしまう。

 一同がふり返ると、臙脂色ダークレッド外衣マントを纏ったパンゲア衛兵が、険しい表情で立っていた。


「通行の妨げになるからたむろするな!」


 この一帯には、帰路に就く馬車と到着する馬車が行き交っており、衛兵が苦言を呈するのも無理はない。


「申し訳ございません。急ぎ移動しますので、ご容赦願います」


 誠意を込めた謝罪のお陰で、衛兵が怒りを収めた。

 丁度、オイルレーズンとキャロリーヌとラムシュもやってくる。


「どうしたのじゃな?」

「少しばかり立ち話をしておりましたところ、パンゲア衛兵の小隊長から、お叱りを受けた次第です」

「ならば、さっさと馬車に乗るとしよう」

「ご尤もです」


 オイルレーズンがジャムサブレーに言葉を掛ける。


「機械人形のことを尋ねたいのなら、あたしらと一緒にくるがよい」

「お言葉に甘えさせて頂きます」


 オイルレーズンたちとジャムサブレーを乗せた馬車が先に出発し、すぐ後に、ブイヨン公爵の借りている小さな馬車が続く。


 七つ刻半を過ぎた頃、一行がパニーニ大旅館に到着した。

 部屋に入ってすぐ、ラムシュは眠りに就いた。ロッソが残り、他の者は、いくつかある談話室の一つに集まる。

 ブイヨン公爵が、開口一番、「なぜ皆さんは、この魔法具インストルメントに関心をお持ちなのでしょうか」と尋ねた。

 これには、パースリが最初に答える。


「自ら動ける、その()()()()()を、ただ単に理解したいのです」

「あたくしも同じですわ。どうして動くのか、不思議に感じておりますの」

「なるほど。そう感じるのが道理でしょう」


 続いて、ジャムサブレーが打ち明ける。


「私は、機械人形が環境に及ぼす影響を調べる任務を担っているのです。それがため、方々を探し歩いていました」


 オイルレーズンは、軍隊が悪用しないかという懸念、および「蒼色月ブルームーンの害悪」との関係について知りたいと話した。

 悪用については、ブイヨン公爵が直ちに否定する。


「動く機械人形は、全世界ユーニヴァース()()()()あり得ません。たった一つでは、部隊を構成できませんから、ご心配には及ばないでしょう」

「でも、大昔に爆発したお山から、沢山の機械人形が出ていらっしゃるような伝説がありますのよ?」


 キャロリーヌの投げ掛けた疑問に、公爵が頭を横に振って返答する。


「偽りが伝わってできた物語に過ぎません」

「そうしますと、二つ目の機械人形を作れませんの?」

「作ることはできますが、動き始めれば、その途端、一つ目が動かなくなってしまいます。それは錬金術の道理です」


 ブイヨン公爵は、機械人形が動く仕組みについて説明した。

 全世界そのものが、竜活ドラゴン力源(‐エナヂ)などの動力源を消費して、機械人形を動かす。その際、同時に動かせるのが一つなので、先ほど彼が話した言葉「動く機械人形は、全世界に一つしかあり得ません」は真実まことだという。

 これを聞いて、ただ一人、パースリだけが得心に至る。

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