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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《★~ 蒼色月の害悪(三) ~》

 観客の多くは、「審判役から注意を受けている方の参加者が、指示に従って退場するに違いない」と考えたけれど、その推察が外れてしまう。

 皆が視線を注ぐ円形サークル内の少女は、機械人形から杖を受け取って右手に持ち、左手を使って機械人形の右腕を掴む。

 これを見たキャロリーヌが思わず口を開く。


「ヴィニガ子爵さんがお考えになったのと同じ方策を、あのお方も、自身で思いつかれましたのね」

「どうやらそのようです」

「けどパースリさんよお、あんな構えで、まともに戦えるのですかい?」

「ボクには分かりません。でも、少なからず勝算があるのでしょう」


 キャロリーヌたちは、再び息を飲む。

 別の観覧席にいるパイクとジャムサブレーも、この状況に注目していた。


「やっと見つけたわ! あれは紛れもなく機械人形よ」

「ああ、オレにも分かるが、どうするつもりだ?」

「今は大人しく成りゆきを見守る他、なんら術がないわ」

「確かにジャムサブレーの言う通りだ。ここは一つ、小娘が人形を操ってどう戦うのか、じっくり品定めをしようじゃないか。わっははは!」


 色々な思惑が渦巻く中、手合わせが開始した。

 デセールは、機械人形と横並びで立ったまま、杖を水平に持ち上げる。相手の女も太刀を構えて、攻撃の機会チャンスを窺っている。

 一分刻ばかり睨み合いが続き、ようやく太刀の使い手が動く。

 この時、デセールが握る杖の先端から、蒼い光が放たれた。相手は咄嗟に横へ身をかわそうとするけれど、蒼の(ブルー)光線(‐レイ)が綺麗な曲線カーヴを描き、後方から彼女の頭部に命中した。

 太刀使いの女が倒れて動けなくなり、審判役の代表が決着エンドを告げる。

 パイクは、思わず称賛の言葉を発する。


「小娘、やるじゃないか!」


 トロコンブ遺跡で機械人形に遭遇したことのあるキャロリーヌやオイルレーズンたちは、杖から出たのが赤熱光(グロウ‐レイ)でなく、どうして蒼色なのかと少なからず不思議に思うけれど、口には出さない。

 勝利したデセールが、機械人形を連れて二列縦隊の最後尾へ向かう途中、周囲の女性たちから、次々に抗議の声を浴びせられる。


「あんな卑劣な攻撃、規則違反ではないかしら?」

「きっと魔女族なのでしょう」

蒼色月ブルームーンの害悪を起こす者に違いない!」


 十人の審判役が駆けつけて混乱を収めるけれど、どういう訳か、デセールは列を離れてしまう。

 この一部始終を見守っていたパースリが、おもむろに立ち上がる。


「急用があるのをすっかり忘れていました。誠に残念ながら、ボクと妻は、これにて失礼させて頂きます」

「きっと大切なご用でしょうし、お気になさらず」


 言葉を掛けてくれたサトニラ氏を前にして、パースリが一礼してから、ロッソを伴って特別観覧席を後にする。

 甥子の意図するところを察したオイルレーズンが、ゆっくり小麦茶を飲みながら、神妙な面持ちで口を開く。


「キャロルや、しばらくすればラムシュが眠りに就くじゃろうし、あたしらも、そろそろ帰るとするかのう」

「分かりましたわ」


 ここへサトニラ氏が口を挟んでくる。


「おや、そちらのお嬢さんは、もうご就寝になるのでしょうか?」

「そうじゃとも。嘆かわしいことに、この子は、眠り病を患ってしもうてな、希少な薬剤を使った食事ダイエト療法(‐セラピ)の効果で回復しつつあるが、それでも一日に五つ刻ばかりしか、目を醒ましておられぬ」

「お気の毒の極みです。早く全快なさるよう、お祈り申し上げましょう」

「ふむ」


 オイルレーズンが腰を上げながら、言葉を重ねる。


「ショコラとシルキーは、せっかくじゃから、もう少しの間、手合わせの観戦を続けておればよかろう。あたしらは、パニーニ大旅館で待っておるからのう」

「へいへい、バッチリ了解ですぜ!」

「きゅい!」


 こうしてキャロリーヌたちが、サトニラ氏に別れを告げる。

 自ら敗北になることを選んだデセールは、叔父のブイヨン公爵と合流し、機械人形を連れて第一演習場から立ち去る。そんな彼女たちの後方、すぐ近いところまでパースリとロッソが迫っていた。

 ジャムサブレーにしても、機械人形について話を聞き出そうと思い、急ぎデセールたちの追跡を始めた。パイクは、イベリコの手合わせが残っているので、観覧席に留まる。

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