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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《☆~ 円形内の戦い(五) ~》

 周辺を見回していたジャムサブレーが、突如、「あら」と発する。彼女が視線を注ぐ先に、ショコラビスケがひょっこり姿を現す。

 そちらへ向かって、オイルレーズンが言葉を掛ける。


「空腹に耐えかねて、抜け出してきたのじゃな」

「仰せの通りでさあ! 飯抜きなんて、やってられねえ。がほほほ!」

「昼餉は、こちらに用意してありますわよ」

「おうおう、キャロリーヌさん、ありがたいぜ!!」


 ショコラビスケは、空いている席に腰を掛け、乾燥肉ヂャーキ乳酪(バタ‐)巻き麺麭(ロールパン)を、次々と口の中に放り込む。

 そんな彼の嬉々とする顔面を目の当たりにしたことで、キャロリーヌは少なからず安堵感を得られた。

 円形内の戦いは続いているけれど、竜族と獣族の参加者のうち、それぞれ三十人ばかりが二列縦隊を離脱している。その一方で、人族の列から離れる者は、ほとんどいないようだった。


「マトンさんは、お抜け出しになりませんのかしら?」

「あの男なら昼餉を食さずとも平気とは思うが、念のため、シルキーに様子を見てきて貰うとするかのう?」

「そうですわね。是非、お願いしましょう」

「きゅい!」


 シルキーは、軽快に空へ飛び立った。

 一部始終を見守っていたパイクが、おもむろに口を開く。


「先ほどからやり取りを窺っていましたが、どうやらオイルレーズン女史は、鳥類と会話ができるようですね」

「その通りじゃけれど、相手が誰かにもよる。シルキーとは、かれこれ十年のつき合いでな、彼の話す言葉なら、寸分の狂いもなく理解できるわい」

「あの白頭鷲ボールドイーグルの方も、オイルレーズン女史やキャロリーヌ嬢の言うことが理解できているのですね?」

「彼が魔女族の言葉を、どのように言葉として理解しておるかは不明じゃよ。それでも、あたしらの胸に抱く気持ちを察しておる」

「いやはや、たいした白頭鷲です……」


 パイクは、すっかり感服する。


「利口なだけでなく、とっても勇敢ですのよ」

「確かに彼は、なかなかに勇ましい顔つきをしている」


 丁度、昼餉の品々を食べ尽くしたショコラビスケが口を挟む。


「将軍さんよお、この俺さまの顔面だって、なかなかに勇ましいだろう?」

「口元に麺麭パンくずをつけて言われてもなあ……」

「おうおう、これこそ男の勲章だぜ!」


 ショコラビスケは、それを摘み取って口に入れた。

 キャロリーヌが笑いながら言葉を掛ける。


「食べられる勲章ですわね?」

「仰せの通りでさあ。がっほほほ!」


 他愛のない雑談をしているうちに、シルキーが戻って報告する。結局のところ、マトンは平然とした面持ちで、次の手合わせを待っているとのこと。


「さすがはマトンさんですわね。これでようやく、安心できますわ」

「ふむ。心配するまでもなかったようじゃ。ふぁっはは!」


 丁度ここに、一人のパンゲア衛兵が近寄ってくる。


「その鳥を連れてきたのは誰だ!」

「ここにおる白頭鷲なら、あたしが連れてきた。シルキーという名じゃよ」

「鳥の名前なんてどうだってよい! そいつは規則違反を犯した! 処罰パニシュが必要だから、直ちに拘束する!」


 怒鳴り散らすパンゲア衛兵を前にして、パースリが口を開く。


「規則違反というのは、一体どのような行為でしょうか?」

「我ら審判役と参加者を除き、あちらの円形の先は一歩も進めないのだ!」

「この白頭鷲が、一歩でも地面を進んだと仰るのですか?」

「そうだ、我らがそれを見た!」

「彼は、紛れもなく空を飛んだでしょうけれど、地面に脚をつけてなかったのではありませんか?」

「な、なんだお前、おかしな理屈を抜かすな!!」


 衛兵の顔面は、まるで業火フレイムを放つかのようだった。

 一方、オイルレーズンが冷静な口調でシルキーに尋ねる。


「地面を一歩でも進んだかのう?」

「きゅえ!」


 シルキーは、キッパリと否定の言葉を返した。

 しかしながら、衛兵には理解が及ばない。


「黙れ、神妙にしろ! その鳥は拘束だ!!」

「まあ少し落ち着いて聞くがよい。あたしは、パンゲア帝国で政策官長の任にあるサトニラ氏と知り合いでな、どうしてもシルキーを拘束するのなら、まず彼に相談して貰えるかのう?」

「ええっ、政策官長さまと知り合い?? 本当でしょうか!」

「もちろんじゃとも。規則に違反せぬかった鳥を間違いで拘束したとあっては、政策官長が黙っておると思うか」

「そ、それは……」

「どうしたのじゃ?」

「ははっ、急ぎ確かめてきますですっ!」


 衛兵は、頭を一つ縦に振ってから、速やかに走り去る。

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