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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《☆~ 円形内の戦い(四) ~》

 二人の少女を前にして、審判役は険しい表情を崩そうとしない。


「困るのは、お前らではなく我らの方だ! 定められている規則を厳重に守らせなければ、我らの失態となるのだ!」

「失態ですの!?」

「そうだ、もちろんだ! パンゲア帝国王室に仕える我らにとって、失態に対する咎は極めて重く、場合によっては首を跳ねられる」

「まあ、それはお可哀想ですわ!」

「だから規則を守ってくれ」

「分かりました。あたくしたちに代わって、人族のマトン‐ストロガノフさんとショコラビスケという竜族の男性に、昼餉の品々をお届け願えませんこと?」

「それもできない。すべてが規則なのだ!」


 審判役が断固として拒んだ。

 それでキャロリーヌは、このまま話を続けても無駄だと悟る。


「仕方ありませんわね。ラムシュさん、戻りましょう」

「うん」


 二人は渋々ながら、きた道を引き返す。

 観覧席では、オイルレーズンが怪訝そうに口を開く。


「竜族の男どもが並んでおるところで、なにやら騒ぎがあるようじゃわい。シルキーや、偵察を頼めるかのう?」

「きゅい!」


 快諾の声を発するや否や、颯爽と飛び立つ白頭鷲ボールドイーグルである。

 丁度ここに、キャロリーヌとラムシュが戻ってきた。

 二人が落胆した様子でいるものだから、オイルレーズンは、眉をひそめながら問い掛ける。


「どうかしたのか?」

「円形の向こう側へ行こうとしましたところ、パンゲア衛兵のお方に遮られてしまいました」

「それがため、マトンたちに昼餉を渡せぬのじゃな」

「はい。審判役と参加者の他は、一歩も進めない規則だそうです」

「なんとも奇妙で非道なことじゃわい……」


 呆れ果てるオイルレーズンを前にして、キャロリーヌが詳しく説明した。

 パンゲア衛兵は、なにも意地悪をしたくて通行を許さなかった訳ではなく、その規則を遵守させないと彼らの命が危ないから、彼らにしてみれば、やむを得ずしているのだという。


「帝国王室に背けば処刑される。逃げ出すのも、困難に違いあるまい」


 オイルレーズンは、しみじみと話した。

 横で聞いていたパイクが口を挟む。


「苦しい立場にあるパンゲア軍の兵たちにとっては、たしかに災いだ。しかし、そんな命令をおかしいと思わないようなら、彼らにも少なからず罪悪がある」

「そうですのね……」


 キャロリーヌは、胸の内で「理不尽でしかない事態ですわ」と、つぶやかざるを得なかった。

 この時、シルキーが偵察から舞い戻り、オイルレーズンに状況を報告した。

 竜族男性に割り当てられた円形内が騒がしかったのは、二列縦隊に並ぶ者たちのうち数名が、どこかに食事処ビストロでもないか探しに出掛けようとしたところ、パンゲア衛兵の一人が、「列から離れた者は敗北だ!」と通達した。それに端を発して多くの竜族が憤り、審判役との間で、いわゆる「押し問答(アーギュメント)」になっているという。


「あらまあ、それは大変ですわね! ショコラビスケさんは、どうなさっておいでなのでしょう?」


 キャロリーヌは、心配そうな表情で尋ねた。

 これに対して、シルキーが見たままを答える。いつも温厚なショコラビスケにしては珍しく、怒り心頭に発して、繰り返し「昼餉を食わせろ!」などと叫んでいたとのこと。

 オイルレーズンが落ち着いた口調で問う。


「行商を呼んで購入すればよかろう?」

「きゅえ」


 シルキーは否定の言葉を発した上で、「どうやら、それすら許されていないようです」という意味の説明を続けた。

 そしてパースリが、おもむろに口を開く。


「これでは、()()()()()の催しですね。なにか打つ手はないものでしょうか?」

「簡単な理屈だ。勝ち残りたいと思うなら、食事の一度や二度を抜いてでも耐えなければならない。それくらいの根性がない者はパンゲア軍に必要ないと、帝国王室は考えているのだろうなあ」


 パイクは、さも平然と言ってのけた。

 対するパースリは納得できず、思った通りを口に出す。


「それにしても、あまりに無茶ではありませんか」

「ふむ。ドリンク民国軍でも、同じような方針かのう?」


 オイルレーズンがパイクに尋ねた。


「オレたちも、訓練を終えるまでは食事をしない」

「茶の一杯すら飲まぬのか?」

「はい。茶も水も、決して口にしません」

「パースリの言うように、まったく無茶なことじゃわい……」


 再び呆れ果てたオイルレーズンである。

 一方、キャロリーヌは、空腹に耐えているマトンとショコラビスケを気の毒に思うあまり、胸を痛めてしまうのだった。

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