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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《☆~ 円形内の戦い(一) ~》

 他愛のない雑談をしながら、手合わせの開始を待っているところ、行商を営む小妖魔の集団パーティが回ってきた。

 オイルレーズンが呼び止め、小麦茶を丸壺ポットで二つと、昼餉のために、取りあえず十人前ずつ、乾燥肉ヂャーキ乳酪(バタ‐)巻き麺麭(ロールパン)を購入しておく。

 行商の隊長リーダが、お代を受け取った上で、釘を刺してくる。


「壺、碗、皿、済みゃ、お返しくんさい」

「分かっておるわい」

「もっと欲しきゃ、お知らせくんさい」

「これで足りぬかったら、そうするとしよう」


 先端に赤い布が結ばれた木製の棒が、オイルレーズンの手に渡る。行商を呼びたい場合に、高く掲げて合図サイズを送る道具アイテムだという。

 小妖魔たちが別の席へ向かった後、入れ替わりで、男と女が近づいてくる。他でもなく、ドリンク民国のパイク‐プレイト、並びにジャムサブレーだった。


「やあヴィニガ子爵、もうきていたのだなあ!」


 威勢のよい声を掛けられたパースリは、座ったまま一礼して言葉を返す。


「先日はどうも」

「こちらこそ。おほほ」

「おやおやっ!」


 パイクの視線は、パースリの頭よりも先に向けられている。


「そちらの面面は、ヒエイー山の麓でお目に掛かった、オイルレーズン女史とキャロリーヌ嬢ではないか! こんな場所で、思い掛けず淑女レディたちと再会を果たせようとはなあ。わっははは!」


 パイクとジャムサブレーは、オイルレーズンの右横に腰を下ろす。

 ロッソが、隣りにいるキャロリーヌの耳元で囁く。


「お知り合いでしたのね」

「ええ、少しばかり」

「この男は、ドリンク民国軍務省のプレイト将軍さまじゃよ。以前、自分からキャロルに求婚プロポウズしておきながら、その直後、他家に婿入りはできぬという理由で尻込みをして、婚約は反故になってしもうた」

「それは、誠に残念でしたねえ」


 思わず心痛の気色(ハートレンディング)を見せるロッソ。

 その一方で、パイクが頭を掻きながら、苦言を呈する。


「オイルレーズン女史、そんな昔の話、わざわざ持ち出さないで下さい」

「まだ数ヶ月しか、経っておらぬわい。ふぁっははは!」

「これは参ったなあ……」


 パイクは困窮の態度を示した。

 現場フィールドに用意された円形サークルの向こう側では、参加者が続々と集まってきて、三類族の男女別で二列縦隊を形作っている。審判役を務めるために、十人ずつのパンゲア衛兵が、円形を囲むように立つ。

 オイルレーズンがパイクに尋ねる。


「ドリンク民国軍の者は、参加するのか?」

「一人だけ、オレの第二大隊にいる若い男を選抜しました。イベリコ‐パエリアという人族で、大剣を持てば向かうところ敵なしの腕前です」

「手合わせの相手がマトンじゃったら、さぞかし面白くなるわい」

「もちろんイベリコが勝ちますよ。わっははは!」


 丁度この時、六つある円形内で、それぞれ一番目の戦いが始まる。

 応援の声は禁じられていることもあって、観覧席の皆が息を飲み、目前で繰り広げられる手合わせの進行を見守った。

 一分刻(ミニト)が経つ頃、キャロリーヌが思わず口に出す。


「あっ、槍のお方が勝利なさいました!」


 彼女の視線が向けられた円形内の中心辺りに、やや太った人族が棍棒を握り締めたまま倒れており、近くに立つ相手の男性は、槍を繰り返し高らかに掲げ、喜びを表現していた。

 パイクが、そちらを眺めながら意見を述べる。


「棍棒使いの男は動きが鈍い。あれでは負けて当然だ。勝った方の槍も、このオレに言わせれば、まだまだ未熟で、まったく片腹痛い」

「あら、お腹痛(スタマクエイク)ですのね。すぐに薬剤を服用しませんと」

「いや違うぞ! そんな意味ではない!」


 これに対して、オイルレーズンが説明を与える。


「キャロルや、パイク殿の言った()()()()は、笑止(アブサード)という意味じゃよ」

「まあ、そうですのね。あたくし、とんだ勘違いをしてしまいましたわ。お恥ずかしい限りです……」


 キャロリーヌは、頬を真っ赤に染めた。

 この様子を目の当たりにして、パイクの胸中が激しく揺さぶられる。


「やはりキミこそ、可憐な乙女だ!」

「プレイト将軍さま、どうなさいまして?」

「つまり、このオレのだなあ」


 パイクは、再びキャロリーヌに求婚の言葉を伝えようとした。

 しかしながら、ジャムサブレーからの横槍が入る。


「長官殿、冷静になったらどう?」

「ああ、それこそ今のオレに必要なのだと、オレも気づいた」


 辛うじて平常心を取り戻したパイクは、胸の内で、「全身全霊、手合わせのみに集中だあぁ!」と叫び、自身を戒めるのだった。

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