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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《★~ 武術の競い会合(九) ~》

 一同が客用の食堂に入ったところ、大きな丸い食卓の上に、茶碗カップや小皿、および匙の類が、既に並べられてあった。

 丁度、もう一つの出入り口を通って、ロッソが台車を押してくる。そちらに視線を向けながら、パースリが説明する。


「妻が運んでくれているのは、羊羹ヨウカン牛蒡茶(バードク‐ティー)です。どちらの品も、ドリンク民国で購入して持ち帰りました」


 台車には、褐色のお菓子が盛られた平皿と丸壺ポットが載せてある。

 パースリは、平皿と菜箸を手に持ち、皆の小皿に羊羹を取り分ける。夫の後に続いて、ロッソが牛蒡茶を注いで回る。

 見たことのない品を前にして、キャロリーヌが目を輝かせた。


「ヴィニガ子爵さん、羊羹というのは、どのように調理されますの?」

「羊の肉を細かく砕いて、甘い味をつけたスープで煮るのです。それを木の箱に流し込み、冷蔵クーラで固めてから、こうして細長い形に切ります」

「まあ、そのような作り方ですのね」

「ボクも昨日、初めて知りました。兎も角、お食べになって下さい」

「ええ、もちろん頂きますわ」


 キャロリーヌが匙を使って、羊羹を小さく刻んで食そうとする。

 一方、ショコラビスケは、早くも、一切れを丸ごと口に放り込んでいた。


「がっほ!! こりゃ俺さまの好きな味わい(フレイヴァ)だぜ!」

「喜んで貰えて、なによりと思います」


 満足そうな笑みを浮かべるパースリだった。

 そんな彼に向かって、オイルレーズンが言葉を掛ける。


「先ほどの話を、詳しく聞かせてくれるかのう?」

「はい。ボクが昨日、ドリンク民国で想定外に出会ったというのは、軍務省の第二大隊で長官キャプテンを務められている軍人で、名前はパイク‐プレイトです」

「ほほう、あの男か」

「え、知っておられるのでしょうか!?」

「以前、一度だけ遭遇して、少しばかり話した」

「そうだったのですか。さすがはオイル伯母おばさんです」

「それほどでもないわい。ふぁっははは!」


 一頻り笑った後、オイルレーズンは、茶碗の残りを飲み干した。

 ロッソが、丸壺を持ち上げて問い掛ける。


「お代わりはいかかでしょうか?」

「貰うとしよう」


 二人のやり取りを眺めながら、パースリが羊羹を一齧りする。そうして、朗らかな顔面で、体験談の続きを話す。


「ドリンク民国軍務省の建物には、《飲み過ぎ屋》という風変わりな愛称ニクネイムで親しまれている、なかなかに面白い食事処ビストロがありました。ジャムサブレー女史に誘われ、昨晩、一緒に飲み食いをした次第です」

「つまり、その食事処でパイク殿と対面したのじゃな」

「仰せの通りです。武術の競い会合が話題に持ち上がり、プレイト氏も、少なからず興味を抱いておられました」

「あの男は、参加すると言っておったか?」

「いいえ。ボクと同じように、傍観者バイスタンダとして見物なさるそうです」

「ふむ。パイク殿は、偵察を目的にしておるのじゃろう」


 オイルレーズンは、顔面をニヤリとさせながら、牛蒡茶を飲んだ。


 ・   ・  ・


 本日は第九月の二十一日目、灰色月の日(グレイムーン‐デイ)

 キャロリーヌたちが、アタゴー山麓西門を通過してパンゲア帝国に入った。いよいよ明日、武術の競い会合が開催される。

 ラムシュも同行を希望して、この旅に加わっている。銀海竜逆鱗の服用を続けてきたお陰で、彼女は今のところ、一日のうち五つ刻ばかり起きていられる。


 間もなく六つ刻を迎える頃、一行が、パンゲア帝国内で一番に豪華な宿屋として名高い「パニーニ大旅館」に到着した。

 真っ先に馬車を降りたラムシュが、目を見張って感嘆の言葉を放つ。


「なんと大きな建物なの!」

「この国では、二番目の大きさじゃわい」

「ええっ、もっと大きいのがあるってこと!?」

「一番はパンゲア帝国王室じゃよ。この旅館の十倍よりも大きい。明日、目の当たりにできるでのう、楽しみにしておるがよい」

「うん!」


 二人の会話に、ショコラビスケが割り込んでくる。


「建物が豪華なのは見りゃ分かるけど、美味いものは食えますかい?」

「もちろんじゃとも」

「どんなものでさあ?」

「食材は色々とあるじゃろうが、中でも格別なのは、最高級(トプクワリティ)のパンゲア銀毛牛ぎんげうしに相違あるまい。ふぁっははは!」

「がっほーっ!! 早速、そいつで昼餉にしましょうぜ!!」


 嬉々とした顔面で、旅館へ駆け込むショコラビスケである。

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