《★~ 呪詛されるメルフィル家(四) ~》
胸の中をハラハラさせながら、老魔女がしてくれる話を、ここまで黙って聞いていたキャロリーヌではあるけれど、思わず声を発してしまう。
「仔馬は、白い仔馬の姿にされたラムシュレーズンさんは、どうなりますの!」
「ふむ。これから話す。じゃが、その前に茶を、もう一杯くれぬかのう」
見ると、オイルレーズンの茶碗が空になっている。
「あっ、はい。では少々お待ちを……」
丸壺の中には、まだ中身が残っているけれど、すっかり冷め切っているのだった。
キャロリーヌは香草茶を作り直そうと考え、席から立ち上がった。
しかしながら、オイルレーズンが手を掲げて、それを制止する。
「キャロルや、その必要はない」
「でも、もう冷たくなっていますわ」
「ふぁっはは、高温の茶に!」
この詠唱によって、丸壺から再び湯気が立ち上がってきた。
「あらまあ、魔法とは、とても便利なのですね!」
「ふぁっはっは! このような初等魔法なんぞ、お茶の子さいさい、簡単にできるのじゃ」
「あ、あの、でもお婆さん、このお茶、熱々にはなっていますけれど、香りがすっかり消えていましてよ?」
「へっ!?」
「ほら、この通り」
キャロリーヌは丸壺の蓋を外し、オイルレーズンに確かめて貰った。
「ほう、まさしく香草の匂いがなくなっておる!」
「そうでしょう」
「ふぁっははは! 失敗じゃ、失敗! ふぁ-っはっはっは!!」
魔法というのは、思ったほど便利でもなかった。
それでキャロリーヌは、新しい香草茶を作り直すために、急ぎ調理場へと向かうことにする。
談話室に残された老魔女が、小さな声で一つつぶやく。
「続きを、いかに話してやるかのう……」
実は、この老魔女が先ほどキャロリーヌに話した最後の部分、マーガリーナたちが気を失ってから先のことは、おそらくそうなったのだろうと想像して語った、いわゆる「作り話」なのである。悪い魔女ども二人以外に、その場で意識のしっかりしていた者は、他に誰もいなかったのだから。
オイルレーズンが、やや難しい思案顔をして待っていると、キャロリーヌが台車を押して戻ってきた。
「お待たせしました」
「ふむ」
「でも、お婆さん。これで四杯目ですけれど、お腹がタプタプしませんこと?」
作り立ての香草茶をオイルレーズンの茶碗に注ぎながら、キャロリーヌが心配そうな口調で尋ねた。
老魔女が笑顔を取り戻し、快活に答える。
「なんのなんの、歳を取ると肌がすぐに乾燥するでのう。干からびてしまわぬように、毎日四十杯より多く、茶や白湯なんぞを飲んでおるのじゃ。ふぁっはっは!」
「まあ、そんなにも!? ファルキリーさんも、よくお水を飲みますけれど、オイルレーズンさんも、負けていませんのね。ふふふ」
「ふむ。あたしゃ馬にも負けはせぬ。ふぁっはははは!」
老魔女は愉快そうに笑いながら、熱い茶を少しずつ啜るのだった。