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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《★~ 武術の競い会合(七) ~》

 爛漫ブルームな顔面のパイクが、カティングボードに向かって、「おい爺さん、いつものを三人前だ!」と手前セルフ勝手センタドな注文をする。

 これに対して、ジャムサブレーは黙っていられない。


主人マスタ、私は古古椰子(コウコナト‐)果汁ヂュースね」

「へえへえ」


 カティングボードは厨房へ向かった。

 ジャムサブレーが、隣りのパースリに問う。


「ヴィニガさんは、お酒でよかったのかしら?」

「はい。是非とも頂きたいです」

「よおし、そうでないとなあ。ここの白麦酒ワイトビアは美味いぞ。わっははは!」


 パイクは、お酒を飲む前から上機嫌だった。

 その一方で、パースリがジャムサブレーに尋ねる。


「どうしてボクを、このような食事処ビストロに、お誘い下さったのでしょうか?」

「他でもなく、長官(キャプテン)殿と引き合わせるためよ」


 向かい側の席から、パイクが口を挟んでくる。


「ジャムサブレー、長官殿がなんだって?」

「なんでもないわ」

「そもそも、どうして彼を連れてきたのだ?」

「例の()()()()()()()、こちらのヴィニガさんも注目なさっておいでよ」

「おっ、参加するつもりなのか?」


 パイクが目を輝かせるけれど、パースリは冷静に返答する。


傍観者バイスタンダですよ。全世界ユーニヴァースに、どのような影響が及ぶのか、注意深く見守る責任を感じています」

「ほほう、それも道理に違いない。だったらオレも、ドリンク軍を代表して、一つ()()()()()をしてやるか!」


 パースリの言葉に触発される形で、パイクが武術の競い会合に興味を示した。


 ・   ・  ・


 エルフルト共和国の中央、ヴィニガ子爵家で食事ダイエト療法(‐セラピ)を続けているラムシュが、今日は五つ刻に目を醒ました。

 キャロリーヌが、彼女に提案をする。


「昼餉の品を、調理してみませんこと?」

「してもいい」

「それでしたら、ラムシュさんには、茹で団子(ダンプリング)をお任せしますわ」

「うん」


 二人は、意気揚々と調理場へ向かう。

 やがて昼餉の仕度が万端に整い、一同が客用の食堂に集結して、大きな丸い食卓を囲む。

 ショコラビスケが、並べられた品々を眺めながら口を開く。


厚切り(ステイク‐)牛肉ビーフと茹で団子だぜ! 林檎アプル麺麭(‐タルト)もあるのかよ!」

「キャロルとラムシュが作ってくれたのじゃわい。感謝して頂くとしよう」

「おうよ!」


 ショコラビスケが、五枚の厚切り牛肉を、あっという間に食し、続いて茹で団子を口の中へ放り込んだ。


「なんだこりゃ、味が薄くて不味まずいぜ!」

「へっ!?」


 ラムシュが思わず驚嘆の声を上げた。

 その一方で、苦情クレームをつけた当のショコラビスケは、さも涼しそうな顔をして、林檎麺麭に手を出していた。

 オイルレーズンが即座に言葉を掛ける。


「あたしには丁度よい味わい(フレイヴァ)じゃよ。ショコラは酷く濃い味が好みじゃからな、気にせずともよい」

「……」


 ラムシュは肩を落としてしまい、食事を終えるのだった。


 七つ刻となり、医療大臣のマカレル‐ザクースカがやってきた。第一の目的は、眠り病のラムシュを診察すること。

 客用の居間に通されたマカレルが、いわゆる「問診」を行う。


「今は一日のうち、どのくらい起きていられるの?」

「三つ刻くらい」

回復リカヴァリは、順調に進んでいるようね」

「知らない」

「毎日を、どのように過ごしているかしら?」

「……」


 黙り込むラムシュに代わり、キャロリーヌが答える。


「今日は一緒に、お料理をしましたの」

「それは望ましいことです。なにしろ十七年もの長い年月、お馬の姿だったのですから、これから人族として生きてゆくには、手に職を得る必要があります。お父上は、ローラシア皇国宮廷で一等調理官を務めておられたと聞いています。ラムシュさんも、調理官を目指すのね?」


 マカレルが嬉しそうに尋ねた。

 しかしながら、ラムシュは頭を横に振って「違う」と言い残し、客用の寝室に向かって走り去った。


「あら、どうしたのでしょう?」

「先ほど、昼餉の際に」


 心苦しそうな面持ちで、キャロリーヌが打ち明ける。


「ラムシュさんは、懸命に茹で団子を作ってくれました。でもショコラビスケさんから、心ないお言葉がありまして、すっかり落胆なさったのです。決して失敗フェイリャでは、ありませんのに」

山あり谷ありピークス・アンド・ヴァリズの人生(・イン・ライフ)ね?」

「仰せの通りと思います。ラムシュさんが元気を取り戻し、お料理をして下さればよいのですけれど……」


 キャロリーヌは、涙を溢しながら話した。

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