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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》月系統魔女族を蔑む悪い噂
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《★~ 武術の競い会合(六) ~》

 パースリが、意気消沈した様子の面持ちで席を立った。一礼してから副長官室を出ようとしたところ、背後から、不意に呼び止められる。


「ヴィニガさん、ちょっと待って!」

「え、なんでしょう!?」


 咄嗟にふり返り、ジャムサブレーの顔面を凝視ステアする。


「たった今、名案を思いついたわ」

「へっ!?」


 名案といっても、パースリにとって無益かもしれないし、場合によっては、害が及んでくることもあり得る。

 兎も角、話を聞いてみないうちは、どちらへ転ぶのか、判断のしようがない。


「それはどのような?」

「とっても面白い食事処ビストロがあったのよ。今夜、一緒に行きましょう」

「……」

「もしかして、都合が悪いかしら?」

「いえ、そうではありませんけれど」


 少しばかり考え、「はるばるドリンク民国を訪れているのだから、帰国の途に就くのは、()()()()()()に立ち寄ってからでも遅くはない」という結論を得る。


「せっかくのお誘いですし、喜んでお受けします」

「おほほ。それなら十の刻に、もう一度きてくれる?」

「承知しました」


 パースリは、環境庁事務所を後にする。

 月系統の魔女族に関する悪い噂が気掛かりなので、詳しい情報を得られるかもしれないと思って、「約束の刻限まで街を散策してみよう」と決めた。

 しかしながら、事件について、なんら手掛かりがないまま、十の刻まで残すところ十分刻(ミニト)になってしまう。

 再び環境庁事務所に到着したところ、既に門番たちの姿はなかった。建物の前で待っていると、頭上から「ヴィニガさん、こっち!」という、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 隣りに立つ古びた建物の上方へ視線を向けると、三階層の露台バルコニーに、こちらを見下ろすジャムサブレーの姿があった。

 彼女が再び叫び声を発する。


「上がっていらっしゃい!」

「ええっと、その建物に入ればよいのでしょうか?」

「そうよ、中に階段があるから!」

「分かりました」


 隣りの建物には、「軍務省事務所」と書かれた看板サインボードが、壁に設置されている。こちらも門番はおらず、扉が開いたままだったので、容易く入ることができた。

 ジャムサブレーの言った通り、すぐ近いところに階段があるので、躊躇ためらわず三階層まで上がった。

 すると目前に、紛れもなく、食事処の光景が広がっていた。パースリは思わずつぶやく。


「古い建物の中に、こんなにも当世風スタイリシュな施設があるなんて……」

「おほほ。驚いたかしら?」


 ジャムサブレーが、微笑みながら近寄ってくる。


「まったく仰せの通りです」

「私たちの席はあっちよ。さあ、行きましょう?」

「はい」


 二人は最奥の卓へ向かった。

 やや大柄な人族の男性が陣取っており、ジャムサブレーが話し掛ける。


「先ほど話した客人よ」

「ああ、よくきたなあ。オレは、ドリンク民国軍務省の第二大隊で長官キャプテンを務めている、パイク‐プレイトだ!」

「どうも、お初にお目に掛かります。エルフルト共和国から参りました、全世界学者のパースリ‐ヴィニガと申す者にございます」

「まあ硬くならず、そこに座ってくれたまえ。わっははは!」

「……」


 パースリは戸惑うけれど、黙ったまま、パイクと向かい合う席に着く。その隣りに、ジャムサブレーも腰を下ろした。

 ここへ店主マスタのカティングボードが、注文を伺うために現れ、少なからず嬉しそうに話し掛ける。


「全世界学者のパースリ‐ヴィニガさんにお越し頂き、誠に光栄でござります」

「えっ、ボクを知っておられるのですか!?」

「へえへえ、ヴィニガさんは、広く名の通ったお方でござります。知らんぷりの一つでもしようものなら、どんな処罰パニシュがあるか分かりませんで」

「いえ、そんな……」


 カティングボードとパースリを前にして、ジャムサブレーが苦言を呈する。


「嫌なお爺さん」

「え、どうして嫌なのです??」


 パースリが率直に質問した。

 ジャムサブレーに代わって、パイクが満足そうな表情で答える。


「この爺さんはなあ、初めてのお客に、決まって同じ台詞ラインを浴びせ掛け、()()()()をさせていやがる。困った趣味だ。わっははは!」

「それにしても、よくボクのことをご存知でしたね?」

「へえへえ」


 笑みを浮かべるカティングボードの横から、パイクが口を挟む。


「爺さんがキミを知っているのは当然だ。なにしろ、ここへ初めて連れてくる者は、名前や地位を伝える()()()になっているからなあ」

「私も、同じように騙されたのよ。本当に嫌なお爺さんだわ」

「なるほど。つまり、仕組まれていたのですね」


 パースリは、ようやく得心に至る。

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