《★~ 武術の競い会合(三) ~》
七つ刻になってラムシュが目を醒まし、用意されていた食事を済ませる。それから、キャロリーヌたちに連れられて、迎賓館を後にする。
ヴィニガ子爵家に到着した途端、ラムシュは、眠気を催したので、直ちに客用の寝室に通された。およそ二十分刻の間、彼女が起き続けていられたのは、銀海竜逆鱗による治療の効果と言えよう。
シルキーは客用の鳥小屋に入った。他の者たちは、ロッソが作り立ての葱入り牡丹餅と玉葱の皮茶を振る舞ってくれるというので、客用の食堂に集結して、大きな丸い食卓を囲む。
キャロリーヌがゆっくり食しながら、さも嬉しそうに話す。
「このお餅は優しい甘さで、たいそう美味しいですわねえ」
「俺さまも丁度、そう思っていたところですぜ!」
ショコラビスケは、早くも、五つ目に手を出している。
少し経ち、パースリが食堂にやってきた。
「旅の仕度は、もう済んでおるかのう?」
「万端に整いました。出立の刻限まで少しありますので、ボクも、ロッソの作った牡丹餅を味わいたいと思います」
「ふむ。ところで今度の調査は、どこへ向かうのじゃな?」
「ドリンク民国へ赴きます。もしかすると機械人形の行方を知っている者に、会えるかもしれないのです」
「ほほう」
オイルレーズンは、顔面をニヤリとさせた。
パースリが面持ちを崩さず、真剣な口調で説明を加える。
「実は先日、トロコンブ遺跡へ赴いた折、滞在していました山荘で、トングさんから、気掛かりな話を耳に入れました。ドリンク民国の環境庁で副長官を務めているという女性がやってきて、機械人形のことを尋ねたそうです」
「その者は、ジャムサブレーに相違あるまい」
「お知り合いでしょうか?」
「以前から面識のある魔女族でな、先ほどは詳しく話せぬかったが、シシカバブ湖へ向かう途中、ジャムサブレーに遭遇したのじゃよ。その際、機械人形について、少しばかり聞かれたわい。それでトングは、なにか教えたのか?」
「はい。オイル伯母さんたちが遺跡の五階層で機械人形と相見えた結果、ジャンバラヤ氏が大怪我を負った事件について、トングさんは知っているすべてを打ち明けました。その後、女性はトロコンブ遺跡へ向かったそうです。彼女と会って事情を聞くために、ボクはドリンク民国へ赴きます」
「そうか」
十個の牡丹餅を食べたショコラビスケが、マトンに話し掛ける。
「サトニラさんの狙いがどうだろうと、その会合に参加して、俺さまの武術で、強さを見せつけてやりたいものだぜ。がっほほほ!」
「ねえショコラ、俺さまの武術というのは、一体なんだい?」
「おうおうマトンさん、よくぞ聞いてくれたぜ!! 俺さまに限らず、竜族の男にとっての武術はよお、この拳に決まっているでさあ!」
ショコラビスケは、左右の手を握り締め、胸の前で激しくぶつけ合わせた。
この光景を眺めながら、パースリが率直に尋ねる。
「お二人は、なんのお話をされているのです?」
「知らねえのですかい。武術の競い会合ってえのが、パンゲア帝国で開催されるのですぜ」
「どういう会合でしょうか」
「おう、それについては、ちゃんとした説明のできるお方に任せるでさあ。しっかり頼みますぜ、がほほ!」
指名を受けたマトンが詳しく話す。
すべてを聞き終えたパースリが、思わず目を輝かせた。
「へえ~、なかなかに面白そうな会合ですね。今月の二十二日目まで八日ありますし、ボクもこちらに戻っているでしょうから、出掛けようと思います」
「パースリさんも、参加なさるのですかい?」
「いいえ、ボクは傍観者に徹します。武術の手合わせ自体に興味はなく、むしろ会合の結果が、全世界にどんな影響を及ぼすのか、深く関心を抱いた次第です」
「よく分からねえ道理ですが、俺たちと一緒に行こうぜ!」
「そうしましょう」
立ち上がったパースリが言葉を続ける。
「刻限ですので、ドリンク民国へ向けて出立します。ショコラビスケさん、並びに皆さん、このような邸宅ですけれど、心ゆくまで、ご滞在なさって下さい」
「おうよ、しばらく世話になりますぜ!」
「ヴィニガ子爵さん、どうかお気をつけて」
「ありがとうございます。それじゃロッソ、留守をよろしく頼む」
「分かりました。ご無事のお帰りを心待ちにしております」
「うん」
パースリは、妻やキャロリーヌたちに見送られ、意気揚々と旅立つ。