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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》不運だった令嬢キャロリーヌ
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《★~ 急な出立 ~》

 やや難しい思案顔を見せるオイルレーズンに、オマールが問う。


「もしや、銀海竜ぎんかいりゅうの討伐、もしくは黄獏おうばくを狩りに向おうと、お考えですか?」

「その通りじゃわい。どちらを選ぶかのう……」


 銀海竜は希少な凶竜きょうりゅうだけれど、オイルレーズンは、グレート‐ローラシア大陸の南にある広い海域のうち、いわゆる「穴場」と呼ぶに値する、格別の地点ポイントを知っている。ただ、そこへ赴いて遭遇できたとしても、海中で戦うことに伴う多大な危険に加え、狂暴の程度(ヴァイオレンス)なら金竜に勝るとも劣らないがため、逆鱗を奪い取るという望みは極めて薄い。かつて一度だけ相見あいまみえた経験があり、オイルレーズンには、それが骨身に沁みるほど分かっている。

 一方の黄獏は、遭遇しさえすれば、容易く捕獲できる。しかしながら、現在のところ、知られている生息地は、進入禁止の地帯ゾウンとなっており、特別な許可を得られない限り、そこへ足を踏み入れる願いは叶わない。

 だから、老魔女は悩むのだった。


「もう少しばかり、じっくりと考えてみるわい」

「そうですか。私どもで、なにか力添えできそうな用向きがございましたら、遠慮なく仰って下さい」

「差し当たっては、身分証と診断書が必要じゃな」

「はい。ご令嬢の氏名は、どのように記載すればよいでしょうか?」

「ふうむ……」


 オイルレーズンは、眠っている少女を眺めながら考える。

 彼女こそが正真正銘に、本物のキャロリーヌだけれど、そうすると、メルフィル公爵家には、二人のキャロリーヌがいることになってしまう。


「この者は昔、アタゴー山で産声を上げ、すぐ母親と死別した。グリル殿に拾って貰い、ラムシュと名づけられ、大切に育てられた子なのじゃよ」

「分かりました。氏名はラムシュ‐メルフィルですね」

「ふむ。助かるわい」

「あたくしも、一等医療官さまのご親切には、本当に感謝しています」

「どう致しまして」


 オマールは、キャロリーヌたちに別れを告げ、宮廷へ帰った。

 数分刻が経つと、またしても扉が誰かに叩かれる。


「あの男がきおったな。丁度よいわい」


 オイルレーズンが顔面に笑みを浮かべて小屋から出ると、マトンの他に、もう一人がいた。先日までファルキリーのお世話役だった、若い三等護衛官である。


「オイルレーズン女史に、伝書をお届けに伺いましてございます!!」

「ご苦労じゃった」

「はっ! では、これにて失礼をば致します!」


 三等護衛官が丁寧にお辞儀をした上で、速やかに立ち去る。

 オイルレーズンは、受け取った羊皮紙パーチメントの文面に視線を注ぐ。これは、エルフルト共和国大統領からの親書だった。


「ふむ。まさしく()()()()じゃな。ふぁっははは!」

首領キャプテン、よい知らせがあったのでしょうか?」

「詳しい話は後じゃよ。マトンは、急ぎ旅の仕度を始めてくれるかのう。ショコラにも伝えて、寝台ベッドつき馬車を借りておくがよい。出立は、この場所にて、七つ刻を過ぎた頃とする」

「はい、承知しました!」


 マトンは、いつも泊まっている宿屋に向かう。

 そして、オイルレーズンとキャロリーヌも旅の仕度を始めた。


 ・   ・  ・


 想定していた通り、七つ刻になると、少女が目を醒ました。

 彼女の手に、赤色の力豆りょくずが手渡される。


「さあ、食すがよい」

「え、お豆を一粒だけ!?」

「急な出立になるが、これから馬車に乗って旅をする」

「えっ??」

「旅に出掛けたくないのなら、この小屋の中で、たった一人おればよい。次に起きた時には、誰もおらぬよ。食事もないわい。それでもよいかのう?」

「むう……」


 少女は、渋々ながら立ち上がった。

 小屋の外にマトンとショコラビスケ、およびシルキーが待っている。


「初めまして。ようやくお会いできましたね。僕はマトン‐ストロガノフ」

「……」


 唐突に話し掛けられた少女は、呆然とならざるを得ない。

 横からオイルレーズンが口を挟む。


「マトンや、悠長に名乗っておる暇なぞないわい。まだ話しておらぬかったが、この娘は、特発性とくはつせい過眠症かみんしょうと呼ばれる病気を患っておる。厄介なことに、すぐ眠ってしまうのじゃよ」

「ええっ、残念至極です! もっと親密に、言葉を交わしたいのに……」


 肩を落とすマトンである。

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