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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART8 月系統魔女族に及ぶ受難》不運だった令嬢キャロリーヌ
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《★~ 厄介な眠り病(二) ~》

 オイルレーズンが目を細めながら、感慨深げに話す。


「マーガリーナの面影を残しており、整った顔つきじゃわい」

「はい。本当に、お母さまとよく似ておられますわ」


 キャロリーヌは、自身より少しばかり小柄な少女を見つめながら、マーガリーナの明るく微笑んだ、懐かしい表情を思い描く。そして、胸の内では「このお方を見舞っていた酷い事態トラブルを、一体どのようにお伝えすればよろしいかしら?」とつぶやくのだった。

 一方、身仕度を終えた少女は寝転がって、すぐ眠りに落ちてしまう。


「あらまあ、お休みなさいましたわ」

「真夜中じゃから無理もないわい。あたしらも、寝るとするかのう?」

「ええ、そうしましょう」


 少女の身体に、そっと毛布ブランケトを掛けてから、二人も就寝する。


 三つ刻半になって、オイルレーズンが先に起きた。

 それから十分刻(ミニト)ばかり経つと、キャロリーヌも目を醒まし、隣りで静かに寝息を立てる少女の顔を覗き込む。穏やかな睡眠は、まだ途絶えそうにない。


「ぐっすりと、よく寝ておられますわ」

「ふむ。眠りに就いたのは一つ刻を過ぎておったからのう。人族の身体にも、まだ慣れておらぬじゃろうし、今日のところは、ゆっくり休ませておくがよい」

「はい」


 二人だけで手早く朝餉を済ませ、宮廷御用達の碧色茶(ブルー‐ティー)を飲んでいるところ、突如、小屋の扉を叩く音が響く。


「あら、どなたかお越しですわ」

「用心が必要じゃから、あたしが確かめるとしよう」


 オイルレーズンは、扉に備わった覗き穴を通して、外にいる者を見定める。


「おお、マトンじゃったか」


 扉が、オイルレーズンの手でゆっくり開かれる。


「仰せの通りです。ご様子を伺おうと思い、駆けつけました」

「ふむ」


 オイルレーズンは外へ出て、直ちに扉を閉める。

 一分刻もしないうちに再び扉が開き、オイルレーズンだけが小屋の中に入ってきた。それでキャロリーヌが首を傾げながら問う。


「マトンさんは、どうなさいましたの?」

「あの男は、《ファルキリーが、どのような女性の姿になっただろうか》と気になり、はるばる会いにきおったのじゃが、《今は眠っておるから、出直すがよい》と言ってやると、さも残念そうな顔をして立ち去りおった。ふぁっはは」

「まあ、そうですのね」


 二人は小屋の中に留まり、少女が自然に目醒めるのを待つけれど、七つ刻を迎えても、果てしなく眠るかのようだった。

 この状況を目の当たりにして、さすがにオイルレーズンも、「様子がおかしいわい」と神妙な表情を見せる。

 当然のこと、キャロリーヌも心配になった。


「どこか具合でも、お悪くされているのでしょうか?」

「ふうむ。あるいは、呪いの魔法スペルを解く際の副作用かもしれぬ」

「まあ、おそろしいですわ!」


 この時、少女が唐突に起き上がった。

 気づいたキャロリーヌが、嬉しそうに声を発する。


「あ、ようやくお目醒めですわ!」

「おお、よかったわい」

「……」


 少女は黙ったままだった。

 彼女が人族の姿に戻ってから、一度も言葉を交わしていないので、キャロリーヌの方から、なにか話そうとする。


「あのもし」

「……」

「あなたは、ご自身のお名前を知っていらして?」

「……」

「あなたのお名前は、キャロリーヌ‐メルフィルですわよ」

「ヒヒィン!」

「ええっ?? まあ、どうしましょう!!」


 大きく戸惑うキャロリーヌだった。

 ここへオイルレーズンが口を挟んでくる。


「キャロルや、落ち着くがよい」

首領キャプテンさま、このお方は、せっかくお姿が戻りましたのに、人族の言葉をお話しになれないだなんて、お可哀想ですわ!」

「あっははは!」


 少女が大きな笑い声を上げた。


「やあ騙された! すっかり騙され遊ばしたわ! あははは!」

「ええっ!? あなた、ちゃんと話せますの??」

「そりゃそうよ。わたし、人族だもの。あっはははは!!」

「……」


 想定外の衝撃インパクトだったせいで、キャロリーヌが言葉を失った。

 オイルレーズンが苦言を呈する。


「冗談が過ぎるのう。困った娘じゃわい……」

「あはは、あはははは! ああ、愉快だった。わたし、眠くなったわ」


 一頻り笑った後、少女は再び寝転がる。


「えっ、まだ眠りが必要ですの??」

「……」


 返答はなく、次の瞬間、少女は寝息を立て始める。


「やはり、副作用の影響が強いようじゃな」

「そうですのね……」

「もしかすると、()()()かもしれぬ」

「へ!?」


 初めて耳にする病気の名称だった。

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