《★~ キャロリーヌ嬢を救う策 ~》
キャロリーヌたちがローラシア皇国の中央に帰還してから丸四日が過ぎ、宮廷で臨時会合の開催が決まった。
開会となる刻限の七つ刻まで、あと三分刻。五人の一等官、黄土系統の魔女族で二等栄養官のマテュアティー、相談役を務める子爵のアカシャコ‐ラブスタ、および参考人として召喚されたオイルレーズン、キャロリーヌからなる総勢九名が、第三玉の間に集合している。
少し待ったところ、皇帝陛下がお渡りになって、総員が深々と頭を下げた。
悠然としたご様子の陛下は、お黙り遊ばしたまま玉座へお着きなされる。一等政策官のチャプスーイ‐スィルヴァストウンは、一同が頭を上げるのを確認してから、おもむろに口を開く。
「皇帝陛下におかれましては、お健やかにあられまして、誠におめでたき本日この刻限、臨時会合を開会と致します。皆さん、どうぞお手をよろしく」
総員が手を一つ打ち鳴らし、会合の始まりとなる。古くからの形式を遵守した、いつもの風景である。
「最初に私から、一つ提案を申し上げます。マテュアティーさんの昇格を、強く望みます。彼女は調理官としての活躍を経て栄養官に鞍替えし、オイルレーズン女史が官職を辞された後の栄養官事務所を、揺るぎなく統率して下さいました。私は、空席の一等栄養官としてマテュアティーさんが最も適任だと思います」
チャプスーイが話し終え、他の者は口を閉ざしたままである。
「この件に関しては、皇国重要案件、水準の一で対応したいと考えます」
総勢が、いっせいに皇帝陛下のご尊顔を拝する。
玉座におられる陛下は、お黙り遊ばしたまま、微動だになされない。つまり、案件を否定しないという意味に他ならない。
オイルレーズンとキャロリーヌ、および当事者のマテュアティーを除く六人が協議して、「水準の一‐マテュアティーさんの昇格」が多数決で採択され、新しい一等栄養官が誕生した。
続いて、チャプスーイが「水準の一‐キャロリーヌ嬢を救う策」を説明する。
「参考人のオイルレーズン女史とキャロリーヌ嬢から上申があります。お馬の姿になっているメルフィル公爵家のキャロリーヌ嬢を救いたいとのことです」
「「「ええっ??」」」
ジェラート‐スプーンフィード、ピック‐コークスクルー、オマール‐ラブスタが、三人揃って同じ言葉を発し、呆然としてしまう。
「チャプスーイ殿は、なにを言っているのです!?」
一等護衛官のボイルド‐オクトパスが、思わず口に出した。
アカシャコとマテュアティーも彼らと同じく事情を知らないため、黙り込んだままで、驚きの表情を見せている。
チャプスーイは真剣な表情を崩さず、さも平然と話す。
「先月の十六日目に開催のありました臨時会合に参加なさった方は、オイルレーズン女史がお話し下さった、驚愕の逸話をご記憶でしょうか。以前、パンゲア帝国から差し出すように要求がありました白馬ファルキリーは、悪い魔法で姿を変えられた人族の少女だという悲劇のことです」
「あっ、そうだった!!」
皇帝陛下の御前なのに大声を放つボイルドである。
ジェラート、ピック、オマール、アカシャコも思い出したけれど、前回の会合にいなかったマテュアティーだけは得心に至らない。
「もう少し詳しくお聞かせ願います」
「はい。それにつきましては、事件の関係者であるキャロリーヌ嬢に話して貰うとしましょう」
「分かりましたわ」
緊迫感の漂う第三玉の間で、キャロリーヌが緊張しながらも、自身がオイルレーズンの孫娘、すなわち月系統魔女族のラムシュレーズンであり、メルフィル公爵家のキャロリーヌとして生きるようになった経緯を語る。
「あたくしは、あたくしの身代わりとして、お馬に変えられてしまい、本当に不運だったキャロリーヌさんを救おうと決意し、幻の秘薬と呼ばれる金竜逆鱗を先日、ようやく手に入れました。乾燥させて粉末に加工済みの秘薬を、ファルキリーさんに飲ませ、人族のお姿に戻して差し上げたいと願っております」
キャロリーヌは、最後まで全身全霊で言葉を重ねた。
当然のこと、聞いていた誰もが熱い涙を流したり、胸の痛みに苦しんだりせざるを得なかった。
この後、「水準の一‐キャロリーヌ嬢を救う策」が総員の賛成によって採択され、結果として、皇国の国馬であるファルキリーを再びメルフィル家に下賜するという決定がなされた。




