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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART1 キャロリーヌの運命》没落へと向かうメルフィル公爵家
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《★~ 過去(三) ~》

 処分の通告が終わった後、グリル一人だけが、密かに第一玉の間に呼ばれた。

 キャリア宮廷官といえども、そう簡単に立ち入ることの許されない特別な間である。例えば、一等の官職者が長年に渡って勤め上げ、皇国に多大な貢献をして引退する際には、特別な栄誉に値する「特等」という名誉等級(アナレリ‐グレイド)を与えられる場合がある。その授与式の執り行われる場が、他でもなく、ここ第一玉の間なのだった。

 皇族以外の者がこの間へと足を踏み入れるのは、実に四十有余年ぶりである。そういう異例な処遇のためもあり、ここへ招かれたグリルは、戸惑いと恐縮の気持ちを抑え切れないでいる。

 それでも意を決し、彼が胸中に思い描いている一つの進言を試みることにした。


「どうぞ私めの首を、パンゲア帝国に差し出して下さい」

「いいや、それでは済まぬ。首というのなら、皇太子には、やはり皇太子でなければ」

「え、まさか、デリシャス殿下を!?」

「昔のやり方を選ぶならば、そうするしかないのう。だが今の世、たとい皇太子のものであろうとも、首なんぞ最早なんの役にも立たぬ。それよりも実利的な条件を出すこと、それこそが賢明な策である。かの帝国が最も欲しておる戦力でな」

「つまり、竜族兵のことを仰せでしょうか?」

「うむ」


 亜人類の竜族は、どの国においても貴重な兵力である。

 十年前に勃発して、およそ三年間続いたエルフルト共和国との戦争で、パンゲア帝国は多くの竜族兵士を失っている。

 今回の不祥事に対するお詫びとして、屈強な竜族の若者三千人ほどをパンゲア帝国に贈るという解決策を、聡明な皇帝陛下は既に決めておられるのだった。それは、人族の正規兵なら十万の軍勢に匹敵する絶大な兵力である。

 こういった政治的な話の他に、今後のメルフィル家に関して、皇帝陛下からいくつかの温情を賜わるのだった。


 第一玉の間を後にしたグリルは、各方面に配属されている主要な者たちに、儀礼的な挨拶をすることにした。とはいえ、宮廷内にいてはならない身の上になっているため、簡潔に済ませなければならず、別れを告げることのできる人数は限られてしまう。

 四人の一等官職者、および今回の立食会の準備に携わらなかった調理官たちが、労いの言葉や、温かい励ましの言葉を掛けてくれるのだった。


 一通りやるべきことを終えたグリルは、宮廷のすぐ近く、一等地にあるメルフィル邸へと急いで帰った。

 妻と二人の子供を談話室に呼び集め、事件の顛末を打ち明けることにした。

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