《☆~ 共同戦法(二) ~》
オイルレーズンが、落ち着いた口調で話す。
「分かり切った道理じゃが、利口な金竜から逆鱗を奪うには、相応の策を用意して臨まねばなるまい」
「はい。首領さまの仰る通りですわ」
「それであたしは、いくつか考えついた戦法のうち、最も危険な一つを採用するのがよいと決めた。じゃから、念のために尋ねておくとしよう。皆、決死の覚悟を持ち合わせておるかのう?」
老魔女は目を細め、周囲の者たちの顔を順番に覗く。
ジャンバラヤ氏は、マトンとの手合わせで敗北したことによる心痛が大きく、まるで岩にでもなったかのように、無言で座っていた。そんな彼が、ようやく活気を取り戻したらしく、力強い決心の言葉を吐く。
「今さら言うまでもなく、オレさまの覚悟は万全だ!」
「おうおう、この俺も同じですぜ!」
「あたくしも、全身全霊で戦いますわ!」
「きゅい!」
ショコラビスケとキャロリーヌおよびシルキーも、躊躇いなく答えた。
「私たちにも覚悟はあります。叔父さま、そうでしょう?」
「ああ、当然その通りだとも」
ブイヨン公爵が、自信に満ちた笑顔を見せる。
一方、マトンは黙り込んでいるのだった。そのため、横からジャンバラヤ氏が、怪訝そうな表情で問い掛ける。
「剣士殿どうした! この期に及んで、臆病風に吹かれでもしたのか?」
「いいや、僕に限って、そんなことは毛頭ないよ」
「だったらどうして、死んだ貝のように口を閉ざしていたのだ!」
「心外だなあ。僕の覚悟は、いくらか重いものだからね、それがため最後の最後になってから、口に出そうと考えていたのさ」
「なんだ、そういう理由か。まさしく小賢しい魂胆だ!」
ここへショコラビスケが割り込んでくる。
「マトンさんよお、いくらか重いってえのは、一体どんな意味でさあ?」
「それはつまりねえ、街で僕の帰りを待ち詫びている淑女たちに、再び僕の明るい顔を見せて、彼女たちを喜ばせてやりたいという思いが強いから、その分だけ覚悟が重くなるのさ」
「なんだそりゃ! いつになく神妙な面持ちで仰るものだから、てっきり俺は、よほど深刻な一大事かと、少なからず心配になりましたぜ!」
「ふむ。マトンは、相変わらず気障りな男じゃのう」
オイルレーズンが苦言を呈した上で、話を元に戻す。
「あたしらの共同戦法についてじゃが、金竜が現れ、芋の酒を飲んで酔いが回るまでは、誰も手を出してはならぬ。アントレ殿、この約束を守って頂けますかな?」
「もちろんですとも」
「ならば続きを話すとしよう。金竜が業火を吐きおったなら、酔いの回った証じゃから、それを合図として、アンドゥイユが正面に立って、鎖鎌で攻撃を仕掛けるのじゃよ」
「オイルレーズン女史、このオレは、威嚇でなく、真っ向から金竜を攻撃するのですね?」
「そうじゃとも」
「了解!!」
「キャロルとシルキーには、決めてあった通り、空から牽制をして貰う」
「分かりましたわ!」
「きゅい!」
共同戦法においても、キャロリーヌとシルキーの役割に変更はなかった。
「ショコラは石を投げて、アンドゥイユの援護をするのじゃ。その際、無理に金竜の目玉を狙わずともよい」
「おう、分かりましたぜ!!」
「アントレ殿は、金竜の背後から、小瓶を結んだ矢を放てばよい」
「了解です」
「そしてデセールの役目は、アントレ殿の護衛に徹するのじゃな」
「はい、承知しました」
ブイヨン公爵たちも、彼らの考えていた働きと、おおよそ同じである。
「あたしは、マトンを連れて空中を飛び、急襲を仕掛ける。金竜の胸元へ一直線に突き進み、マトンが剣で逆鱗を斬り刻む。一気に決着をつける策じゃわい」
「首領、そんな見事に、大成功を収められますかねえ?」
「分からぬが、迅速にせねばなるまい。なにしろ利口な金竜じゃから、自身の活力が減っていると気づけば、死にもの狂いで猛反撃してきよるに違いない」
「それもそうでさあ」
「兎も角、首領さまのお考えになった共同戦法に従うことが大切ですわ」
「ふむ。これで話は終わりじゃよ」
誰一人として、オイルレーズンに異を唱える者はいなかった。
早速、総員が腰を上げて、シシカバブ湖へ向かう。




