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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《★~ マトンの事情 ~》

 マトンは、魔獣骨剣を背中の鞘に収めてから、静かに腰を下ろした。デセールの視線が鋭く、自身に向けられていたので、穏やかな口調で尋ねる。


「お嬢さん、どうかなさいましたか?」

「いいえ、なんでもありません」

「そうですか」

「あ、あの、黒竜茶はいかがです?」


 デセールが丸壺ポットを持ち上げた。マトンにしてみれば、取り立てて喉が渇いている訳でもないけれど、彼女の親切を受け止めた方がよいと考え、「是非、頂こうと思います」と返答し、茶碗カップを差し出すのだった。

 この二人に眼差しを向けながら、ブイヨン公爵がしみじみと話し始める。


「デセールは、赤ん坊の頃に両親を亡くしたので、子供のいない私と妻が引き取りました。妻が死んでからは、ずっと旅を続けてきたせいで、並並ならない苦労をさせてしまったものです。それだけに、この子が幸せになれるようにと、強く願っています。ですからマトンさん、デセールの婿になってくれませんか!」

「はっ??」


 想定の及ばない話のため、マトンは少なからず困惑した。


「叔父さま、そのようなこと、唐突にお願いしては失礼になりますよ」

「おや、そうだろうか??」

「もちろんですとも。なにしろ、お会いしたばかりですから、まずは、お気持ちを伺わなければなりません」


 デセールはキッパリと言い放った上で、マトンの顔を覗き込む。


「どうか率直にお答え願います。私と結婚して、ブイヨン公爵家を継いで下さるというお考えはありますか?」

「えっ!?」

「子供が生まれたら、私は錬金術を教えます。あなたさまは、剣の腕を鍛えてやって下さればよいかと思います。家族で揃って、各地へ探索に赴くのも楽しいでしょうね」

「いや、その……」


 次から次へと話を弾ませる爛漫ブルームな顔面のデセールを前にして、マトンがすっかり辟易させられた。

 この様子を、キャロリーヌたちが、興味深そうに眺めているところ、横からブイヨン公爵が口を挟んでくる。


「デセール、少し落ち着きなさい。どのように子供を育てるかは、いずれゆっくり話し合えばよいのだから。それよりも、まだ十五歳のお前は、まず自分が、これから立派な錬金術者アルケミストへと成長しなければならない」

「はい、その通りです。つい先走ってしまいました。マトンさま、済みません」


 頭を下げるデセールに、オイルレーズンが問う。


「そなたは、マトンを気に入ったのじゃろうか?」

「はい。勇敢に手合わせをなさって、勝利されるお姿を拝見しまして、私は、本当に感極まりました。きっと、恋の始まりに違いありません」

「ふむ。ならば、マトンの事情を、隠さず話しておかねばなるまい。若いように見えるのじゃが、彼は五十年よりも長く生きておる」

「まさか、ご冗談ですか?」


 疑うデセールに向かって、マトン自らが話す。


「僕は二十歳の頃に、老化防止アンチエイヂングという高等魔法(ハイ‐スペル)が施されたので、それから三十年間、このような若い姿を保っていられました。でも、老化防止の効果は、オイルレーズン女史が存命の間に限られるのです」

「まあ、そのような魔法が……」


 デセールは、驚きのあまり言葉を失った。

 一方、マトンに代わって、オイルレーズンが説明の言葉を加える。


「老化防止は、禁断フォビドン魔法(‐スペル)じゃからな、あたしが死んで効果がなくなると、どのような副作用があるか分からぬ。その際、マトンの老化が急激に進み、干からびてしまうかもしれぬ。あるいは、一瞬にして命が尽きる場合もあり得る」

「……」

「じゃからデセールや、彼と結婚しようというのなら、相当な覚悟をしておく必要があるよ。どうじゃな?」

「それほど大きな覚悟を、私は持ち合わせていません。マトンさまが早くお亡くなりになれば、きっと子供も悲しい思いをするでしょう。ですから、私が先走って話しました一切を、誠に勝手ながら、どうかお忘れになって下さい」

「ふむ。なかなかに正直じゃわい。ふぁっははは!」


 ブイヨン公爵がマトンに問う。


「そのような代償を払ってまで、二十歳の若さを保つことになさった動機モウティヴを、お聞かせ願えますか?」

「分かりました」


 マトンは、自らの選んだ人生について語る。

 話が終わるや否や、デセールが丸壺を持ち上げた。


「お代わりは、いかがです?」

「もう結構ファインです。満足するほど飲みましたから」


 今度ばかりは、迷わずに断るマトンだった。

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