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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《★~ 手合わせ ~》

 しばし会話が途絶えたところ、キャロリーヌがジャンバラヤ氏に問う。


「ラディシュグラッセさんのことも、お忘れでいらっしゃいますの?」

「誰の話をしているのだ!」

「他でもなく、ジャンバラヤさんのお姉さまですわ」

「オレに姉がいるのか??」

「はい。生き別れとなっておられましたけれど、ジャンバラヤさんは、あたくしたちと一緒にパンゲア地下牢獄へ赴き、牛肉食堂ビーフレストラントという名の食事処ビストロで、ラディシュグラッセさんと、再会を果たされました」

「それすら覚えていない。すっかり忘れてしまった」

「お可哀想に……」


 今のジャンバラヤ氏に家族の話をすると、いっそう苦しませるだろうと思い、仕方なく沈黙する。


「牛肉を食せば、ひょっとすると、記憶が戻るかもしれねえでさあ?」

「なんだと、本当か!」


 ジャンバラヤ氏が目を輝かせるけれど、横からマトンが口を挟む。


「ショコラ、記憶の喪失というのは、そう単純なものではないよ」

「マトンさんよお、なにごとにおいても、試してみるまで、結果は分からねえものですぜ?」

「そうだけれど、思いついたことを片っ端から試す訳にもいかないだろう」

「おうおう、そりゃあそうでさあ。がっほほ!」


 静かに黒竜茶を飲んでいたオイルレーズンが、ジャンバラヤ氏に尋ねる。


「時に、鎖鎌の腕前はどうじゃろうか?」

「抜群です!」

「ならば、マトンと()()()()をしてみるがよい」

「おお、望むところだ! 剣士殿、さっさと始めよう!」

「分かったよ」


 二人は立ち上がり、お馬の縦幅で二頭分ばかり離れる。

 マトンが、背中の魔獣骨剣を引き抜いて構えた。ジャンバラヤ氏は、腰を低くした姿勢で、鎖に結ばれた銅の塊をクルクルと回す。


「えいっ!」


 ジャンバラヤ氏が先に攻撃を始めた。

 銅の塊が飛んで、魔獣骨剣に絡みつく。鎖に力が込められると、マトンの身体がジャンバラヤ氏の方へ、ゆっくり引っ張られる。


「ううっ!」


 苦しそうな表情のマトンに向けて、ショコラビスケが大声を放つ。


「おうおう、しっかりして下せえ!!」

「ショコラや、黙って見守るがよい」

「了解でさあ……」


 ショコラビスケは口を閉じた。

 ジャンバラヤ氏が左手で鎖を手繰たぐり寄せながら、右手に持つ鎌の刃を、マトンの首筋に近づける。


「剣士殿、降参しろ!」

「ど、どうしよう……」


 マトンが小声で答え、それと同時に剣を離す。


「なっ!!」


 鎖に渾身の力を込めていたジャンバラヤ氏が、大きくってしまう。

 その一方で、マトンは華麗に宙を舞った。身体を回し、ジャンバラヤ氏の右腕を強く蹴る。鎌が地面に落ち、それを拾って、相手の背後に立つ。


「鎖鎌殿、降参するかい?」

「しまった……」


 落胆のあまり、ジャンバラヤ氏は地面に座り込む。

 オイルレーズンが近寄って言葉を掛ける。


「記憶を失っても、鎖鎌の扱い方は、身体が覚えておるのかもしれぬ。じゃが、それだけでは勝てぬ」

「くっ……」


 ジャンバラヤ氏は、肩を震わせながらマトンの顔を見つめる。


「剣士殿、頼む! もう一度、オレと手合わせをしてくれ!」

「仕方ないね。早速、始めるとしよう」


 再び両者が向き合い、途中までは先ほどと同じ動きをした。

 マトンが一瞬、剣を握る力を弱める。対するジャンバラヤ氏は、それを予想していたので、今度ばかりは仰け反ったりしない。


「ふん、同じ戦法が通用するものか!」

「その通りだね」


 マトンが顔面をニヤリとさせ、剣を握り直した。ジャンバラヤ氏も、再び鎖に力を込める。

 しかしながら、絡まっていた鎖が緩んでいるため、剣が解放された。


「あっ!!」


 驚愕を隠せないジャンバラヤ氏の足元へマトンが飛び込み、自由になった魔獣骨剣の先端を向ける。


「鎖鎌殿、また降参だね?」

「……」


 無言のまま肩を落とすジャンバラヤ氏だった。

 そんな痛々しい姿を前にして、オイルレーズンが、さも押しつけがましい口調で、説教サーモンを始める。


「アンドゥイユや、相手が金竜じゃったら、今頃は生きておらぬよ?」

「はい、それは痛いほど分かりました。だけど、どうしてオレは、これほどまでに弱かったのだろうか!」

「強くなるには、まず自身の弱さを認めることが大切じゃわい」

「仰せの通りです!」

「どれだけ鎖鎌の扱いに長けておろうとも、戦いにおいては、懸け引きの仕方を知らぬようじゃと、勝ちを得られぬ」

「二度と忘れないよう、しっかり肝に銘じておきます!」


 ジャンバラヤ氏は涙を流し、オイルレーズンからの教えを胸に刻む。

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