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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《★~ 忘却の果てにある錬金術 ~》

 たいていの者にとって、わざわざ危険に満ちたシシカバブ湖へ赴こうという第一の目的は、金竜の討伐である。ブイヨン公爵の集団が、そのために訪れているのだと判明したところで、なんら驚くに値しない。

 探索者たちの喉から手が出るほどに欲する金竜きんりゅう逆鱗げきりんは、幻の秘薬として広く知られた極上等(マクスィマム‐)品目アイテムである。だから、複数の探索者集団が鉢合わせすると、たとい逆鱗それを得られたとしても、分け前が減るか、悪くすれば奪い合いになってしまう。このような事情に対して、オイルレーズンは大いに懸念せざるを得ない。

 するとブイヨン公爵が、思いもよらない話を始める。


「私たちの探索で、うまく金竜を討ち取っても、なに一つ収集品アイテムを得ようとは考えていません」


 これには、オイルレーズンだけでなくマトンも、思わず自身の耳を疑う。


「まさか、あなた方は、防竜ぼうりゅう砦ヶ村(とりでがむら)を支援しておられるのでしょうか?」

「そのような村を、私は知りません。きっとマトンさんは、なにかしらの誤解をしておられるに違いありません」

「あ、これはどうも済みませんでした。収集品が目的でないとすれば、僕の考えが及ぶのは、その一つしか、見つからなかったものですから……」


 マトンが、申し訳なさそうに謝罪アパロジの言葉を述べた上で、アイスミント山岳に防竜砦ヶ村が存在している意義を説明する。

 しかしながら、ブイヨン公爵は、興味を持った様子を少しも見せなかった。

 そこで今度はオイルレーズンが問い掛ける。


「是非とも、一つ教えて貰えるかのう?」

「なんでしょうか」

「他でもなく、アントレ殿たちが金竜討伐をなさる目的ですわい」

「簡単に答えますと、錬金術の発掘になります」

「ほほう」


 錬金術者アルケミストは、大きく二つに分けられる。一つが、既に知られている調合の仕方を頼りに、便利な道具や美味しい料理を作ることを生業なりわいにしている者たち。もう一つは、ブイヨン公爵のような、いわゆる「錬金アルケミ学者(‐スコラ)」であり、遥か昔に忘れ去られた調合を再び確立させるために、地道な研究を続けている。

 こういった話を聞いたキャロリーヌは、ふと疑問を感じるのだった。


「とっても役立つ錬金術ですのに、大昔の錬金術者さんたちは、どうしてお忘れになりましたのかしら?」

「迫害によるものじゃよ」


 オイルレーズンが、悲痛な面持ちで答えた。

 そしてブイヨン公爵も同じような様子で言葉を重ねる。


「古い時代、人族のなした大きな過ち、つまり、魔女狩りと錬金狩りです」

「えっ、魔女と錬金術者の方々が、人族に狩られましたの!?」

「悲しい話ですが、まさにその通りです」


 魔法や錬金術を使う者たちの大勢が処刑された上で、錬金術の調合について記された書物の数々が、無惨にも焼き払われたという。

 この酷い歴史ヒストリの真相を知らされたキャロリーヌは、身体を震わせながら、大粒の涙を流すのだった。

 神妙そうな表情のマトンが、ブイヨン公爵に問い掛ける。


「僅かに残る書物の断片を唯一の手掛かりとして、忘却の果てにある錬金術を蘇らせるのですね。それは、まるで地中深く、どこにあるか分からない宝物アイテムを掘り当てるかのように、途方もなく大きな努力を要するのだと思います」

「はい。だからこそ、私たちは、錬金術の()()と呼んでいるのです」


 ここへショコラビスケが口を挟んでくる。


「大変なお仕事だってえのは分かりましたぜ。それでブイヨン公爵さんよお、今はどんな()()に挑んでおられるのでさあ?」

竜活ドラゴン力源(‐エナヂ)です」

「がほっ、そりゃあ一体なんですかい??」

「強い竜から活力を譲り受けて、瓶詰にするのです。とても長い間、機械を働かせることのできる、たいそう有効な()()()として使えます」

「な、なんじゃと!!」


 唐突に大声を放つオイルレーズンである。

 彼女に限らずマトンとキャロリーヌにしても、ブイヨン公爵の話した「機械を働かせる」という言葉によって、機械人形オートマタを連想させられてしまった。


「お代わりは、いかがです?」

「ふむ、貰うとしよう」


 オイルレーズンの差し出す茶碗カップに、デセールが黒竜茶を注ぐ。

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