《★~ ジャンバラヤ氏の話 ~》
先日、トロコンブ遺跡で魔獣討伐に参加していたジャンバラヤ氏は、機械人形が杖を使って放つ赤熱光で気絶させられた。丸三日を経て意識を取り戻すものの、記憶を失っていた。それで、旧知の間柄である全世界学者のパースリ‐ヴィニガに連れられて、アラビアーナの街へ向かう。下山する途中、麓に近いグラッパという村を通ったところ、酷い事件があった。
「悪党が、長老の孫娘を捕らえて、金貨を二千枚要求していた!」
「卑劣な振る舞いですわねえ」
「その通りだ! しかも、悪党は鎖鎌を持っていた!」
「まあ、危険なこと!」
「もちろんだとも。だからオレさまが奪い取った! これだ!!」
ジャンバラヤ氏は、得意気な顔で鎖鎌を掲げた。
ここへショコラビスケが割り込んでくる。
「だけどよお、相手が悪党だとしても、その者が持っている道具を奪えば、ジャンバラヤさんだって、同じ悪党になると思いますぜ」
「いいや断じて違う! この鎖鎌は褒賞だ!」
「がほっ、そりゃあ一体、どういうことでさあ?」
「話してやるから、しっかり聞け!」
「おっ、おうよ」
ショコラビスケが黙って耳を傾けるので、ジャンバラヤ氏は、事件の全貌を最初から話した。
三日前の夕刻、ジャンバラヤ氏がパースリと並んでグラッパ村の中心地を歩いていると、近くの建物内から、女性の叫び声が響いてきた。よからぬ事態だと判断した二人が、急ぎ邸に入った。
一人の悪党がいて、幼い女子を人質に取り、「金貨を二千枚出せば、この子を解放してやる。早く用意しろ!」と甲高い声で怒鳴っていた。少し離れたところ、人族の成人女性が青ざめた顔で震えている。
ジャンバラヤ氏たちが現れたので、悪党は口を閉ざした。それと同時に、鎖の先に結ばれている銅の塊をクルクルと回して勢いをつけ、ジャンバラヤ氏にぶつけようとする。
「オレは咄嗟にかわし、飛んできた銅の塊を両手で受け止めた。そして渾身の力で引き寄せる! この戦法が功を奏し、悪党が体勢を大きく崩した。するとパースリが僅かな隙をついて、女子を救い出す。オレも俊敏に動き、悪党から鎖鎌を奪う。そこに長老が帰ってきたので、悪党を倒して縄で縛る手助けをして貰った。オレたちは、事件を迅速に解決できたのだ!」
悪党が持っていた鎖鎌は元々、長老の愛用する農具だった。長老は、孫娘を危機から救ってくれたお礼として、百枚の金貨に加えて、鎖鎌をジャンバラヤ氏に進呈したのだという。
一部始終を聞いたショコラビスケは、ようやく得心に至る。
「おうおう、勘違いをして済まなかったぜ! さっきジャンバラヤさんが仰った通り、その鎖鎌は、まさしく褒賞に違いないでさあ。がほほ!」
「分かったなら、それでよい! はははは」
「悪党はどうなりましたの?」
キャロリーヌが率直に尋ねた。
しばらく笑っていたジャンバラヤ氏が説明する。
「悪党は、パンゲア帝国からエルフルト共和国に移住してきたばかりの者で、生活が困窮していたので、長老の邸宅に押し入ったそうだ。本当に悪いことをしでかしたと謝罪の言葉を述べたが、それで許されるはずがない! 長老が共和国軍に知らせて、派遣された警備兵が、その者を連行した」
「そうですか。ジャンバラヤさんたちは、どうなさいましたの?」
「オレとパースリは、長老の邸宅を後にした。パースリから、以前のオレが鎖鎌の使い手だったと教わった。だから広場に立ち寄り、周囲の安全を十分に確かめた上で、試しに鎖鎌を宙に飛ばした。華麗に空を斬り刻んだりもした。オレの腕前は卓越していたから、急激に自信が湧いて、アラビアーナの街へ行くよりも、このオレが記憶を失ったという、アイスミント山岳の中腹に戻りたいと思った。だがパースリが反対して、言い争いが起きた!」
ここに横からブイヨン公爵が口を挟んでくる。
「丁度その広場に、私とデセールもいましてね。彼が、鎖鎌を巧みに扱う様子を目の当たりにして、彼の高い技量を知ったのです。それがため私は、探索者集団に彼を勧誘しようと考えました」
「その通りだ! ブイヨン公爵が説得してくれたお陰で、あの頑固なパースリも、渋々ながら承諾せざるを得なくなった。はははは、実に愉快だ!」
ジャンバラヤ氏は、またしばらく嬉しそうに笑う。
そんな彼の横顔へ向けて、デセールが熱い眼差しを注いでいる。キャロリーヌが気づき、「敬愛の気持ちを伝えるかのようですわ」と思うのだった。