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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《☆~ 金竜討伐の戦法(二) ~》

 逆鱗を奪われた金竜は、しばらく怒り狂うけれど、気力を消耗して、徐々に穏やかな気性へと変貌する。そうなった後は、街や村で暴れたりしない。だから、逆鱗を奪い取りさえすれば、討伐を成し遂げたも同然と言えよう。


「たとい奪うことができずとも、逆鱗を狙って集中的に攻撃するのは、少なからず有効な策じゃよ」

「あら、そうですのね」

「防竜砦ヶ村の金竜討伐隊が使っておる戦法でな、芋の収穫時期を迎えるまで、シシカバブ湖に足止めしておくのが狙いじゃわい。金竜というのは、逆鱗に傷を負うと激しく暴れ、半刻ばかり手にえぬようになりはしても、その後、傷がえるまで一年の間、弱ったままでおるからのう」


 マトンが横から、キャロリーヌに説明する。


「離れた場所にいて、矢を放ったり長槍を投げたりするから、接近戦と違い、反撃を受けにくいのが利点だよ。でも、この戦法だと、逆鱗を奪うという僕たちの目的は果たせないね」

「だったらマトンさん、俺たちは、どうやって戦おうってえのでさあ。酔わせたくらいで勝てる相手じゃねえはずですぜ?」


 ショコラビスケの言葉を耳にしたキャロリーヌは、以前オイルレーズンから聞いた物語ドラーマの一つを、ふと思い出すのだった。

 昔、ローラシア皇国の宮廷が「金竜逆鱗を手に入れ、差し出してくれた者には、ムーン系統の正統な継承者、レアレイズンとの婚姻を許す」と御布令之書ノウティフィケイションを出した際に、それを見た貴族、バレル‐メルフィルが、金竜にたっぷりの酒を与えて眠らせた上で、うまうまと逆鱗を奪ったという逸話エピソウドである。


「こんなに大きな樽のお酒を飲み尽くせば、金竜だって寝てしまいますわね?」

「いいや、そう都合よくいかぬ。なにしろ、芋の酒(ヤム-スピリツ)は、かつてバレル殿が用意したのと種類が違うじゃろうからな。それに金竜も、祖先の過ちを教訓として、酔い潰れるほど多くは飲まぬよう、きっと心掛けておるわい」

「仰る通りですわね」

「さあて、雑談は終わりじゃわい。あたしらの戦法を話さねばなるまい」

「おうおう首領キャプテン、早く聞かせて下せえ!」

「ショコラや、あわてるのでないわい」


 オイルレーズンは、五杯目の薬草茶を飲み干した。


「お代わりが必要ですわね?」

「ふむ。頼むとしよう」


 キャロリーヌが、向けられた茶碗カップを熱いお茶で満たす。

 独特の香りが漂い、オイルレーズンが改めて話す。


「夕刻を迎える頃、酒樽の上蓋を割っておき、金竜を誘い出す。その間、あたしらは岩陰で身を隠し、相手が姿を現して酒を飲むのを待つ」

ガイが飲んでいるところを急襲するのですかい?」

「いいや違う。たとい相手が飲み終えても、あたしらは、しばらく息を飲み続けねばなるまい。金竜に、酒の酔いが回るまでのう」

「酔いが回ったか、どのようにして分かりますの?」

業火フレイムを吐きおったなら、すっかり酔った証じゃよ」

「おう、それで今度こそ、急襲を仕掛けるのでさあ?」

「いいや、また違っておるわい」

「がほ、そうですかい……」


 気落ちするショコラビスケを尻目に、オイルレーズンが続ける。


「業火を吐くのを合図サインとして、キャロルとシルキーは空へ飛び、金竜の頭上、少しばかり高いところを旋回するのじゃ。相手の気を引くためにのう」

「分かりましたわ」

「きゅい!」


 キャロリーヌとシルキーが担うのは、いわゆる「牽制チェク」である。

 ここへショコラビスケが懲りずに、またしても口を挟む。


「そいつは、かなり危なくねえですかい?」

「金竜討伐じゃから、危険があって当然じゃわい」

「俺だって重重じゅうじゅうに承知ですが、命懸けの役割をキャロリーヌさんたちに任せるのは、ちょっと無謀に思えますぜ?」

「キャロルは、死鏡デスミラを身につけておるのでな、金竜は攻撃してこぬ」

「そんなことを、一体どうしてガイが分かるのでさあ? まさか、言葉で伝えてやるのですかい?」

「相手は利口じゃから、伝えずとも分かるはず」

「がほっ!? そうだとは知りませんでしたぜ……」


 金竜は、ショコラビスケが思うよりも、ずっと頭の働く生き物だから、目前の者を攻撃してよいかどうか、いつも正しく見極めている。オイルレーズンが考えついたのは、それを逆手に取る策なのだった。

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