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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《☆~ 金竜討伐の戦法(一) ~》

 奥地へ進むにつれて、次第に泥と氷の湿地帯が広がってきた。

 シシカバブ湖に近づくのは容易でないと覚悟していたけれど、オイルレーズンの想定が大きく外れてしまう。十七年前と違って、深い蒼色の土瀝青アスフォールトを敷いた道が通っているのだから、これは無理もないこと。

 あまりの変わりように、かつての光景を覚えているマトンにしても、感嘆の言葉を発せざるを得ない。


「いやあ、見事に舗装できたものだよ」

「ふむ。最近になって、防竜ぼうりゅう砦ヶ村(とりでがむら)の者らが造りおったのじゃろう」


 実際には、エルフルト共和国の国土省による多大な支援があったし、沢山の土瀝青を得るために、有能な錬金術者アルケミストたちも粉骨砕身した。

 そんな努力の賜物たまものと呼ぶに値する路面を踏み締めながら、キャロリーヌも、明るい表情で声を上げる。


「とっても歩きやすいですわねえ」

「おうよ! 酒樽バレルだってこんなに、よく転がりやがるぜ。がほほほ!」


 一行は、しばらく口を閉ざして、黙黙もくもくと歩いた。

 先頭を進んでいるマトンが、突如、嘆きの言葉を発する。


「ああ、なんという凄惨な仕打ちだろう!」


 どういう訳か、まだ新しいはずの路面がところどころ割れたりして、道路の寸断された箇所ポイントも少なからず見えている。キャロリーヌとショコラビスケも、このような酷い光景を目の当たりにして、思わず眉をひそめた。

 オイルレーズンは、平然とした顔面を崩さず、静かに口を開く。


「あたしらにとって便利な造成クリエイトであっても、金竜なぞが見たなら、極めて目障りな代物なのじゃよ」

「そうするってえと、ガイの仕業ですかい!?」

「むろん、その通りじゃわい。他に考えようがないからのう」


 道の途切れている区間は、仕方なく湿地帯を歩く。樽は、泥の上だと転がしにくいため、その都度、ショコラビスケが担いで運んだ。

 間もなく六つ刻を迎えるという頃、シシカバブ湖に辿り着く。予定より早い到達だったけれど、舗装された道路のお陰である。


「ここに金竜が現れるにしても、夕刻を過ぎてからのはずじゃし、それまで待たねばなるまい。兎も角、昼餉にするかのう?」

「おうおう! 丁度その刻限だと思っていましたぜ。がっほほほ」


 夜中に仕留めた牙猪の肉が残っているので、キャロリーヌが干し芋と乾燥野菜も一緒に使って、煮込み料理を作る。

 食事を済ませると、キャロリーヌは、毒消し十(カミーリオン)薬草プラントの熱いお茶を用意した。オイルレーズンの指示である。

 ショコラビスケは、手で鼻を覆いながら苦言を呈する。


「この風味フレイヴァだけは、どうしても苦手だぜ」

「あたくしは、美味しいと思いますわ。うふふ」

「魔女族は、こういうのがお好きですかい?」

「そうじゃとも。ショコラも少しは飲んでおくがよい。ここら不浄な沼地は、強い瘴気が満ちておるからのう。毒消しは大事じゃよ」

「へいへい、分かりましたでさあ……」


 渋々ながら、薬草茶を口にするショコラビスケだった。

 その一方で、オイルレーズンが三杯目を飲みながら発言する。


「さあて、金竜討伐の戦法を決めておくとしよう。まず、ショコラに一つ、釘を刺しておかねばならぬ」

「釘だなんて、俺の身体の()()に刺すつもりですかい??」

「胸の内じゃわい」

「がほっ!?」


 驚愕の声を放つショコラビスケに向かって、マトンが説明を加える。


首領キャプテンの仰せになったのは、今の場合、本物の釘をキミの身体に突き刺すのでなく、《念を押して、厳重に注意しておく》という意味だよ」

「おう、そういうことですかい。俺は一瞬、逃げ出したくなったぜ!」


 ショコラビスケは胸を撫で下ろした。

 そんな彼を前にして、オイルレーズンが改めて口を開く。


「金竜を倒そうなぞと、決して思ってはならぬ」

「がっ、どうしてですかい?? 俺たちはガイを仕留めにきたはずですぜ?」

「いいや違う」

「そりゃまた、どういう訳でさあ!」

「あたしらは金竜を仕留めるのでなく、逆鱗げきりんを奪いにきたのじゃよ」

「奴を倒せば、それもごっそり頂戴できると思いますぜ」

大狼ウルフ牙猪ボーを相手にするのと同じようにはいかぬわい。完全に倒すのでなく、弱めるのを第一と考えねばなるまい。その上で、あたしらが逆鱗を得て無事に帰還できたなら、それで金竜討伐を果たせたと言えるじゃろう?」

「そりゃまあ、そうかもしれませんがね……」


 ショコラビスケは、得心に至らないものの、オイルレーズンの言っている道理も正しいと、少しは分かるのだった。

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