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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》利口な金竜から逆鱗を奪う策
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《☆~ 生け贄山羊の祭壇 ~》

 エルフルト共和国が王国だった昔、ポワロ八世が王に即位した頃から、黄金色に輝く凶竜きょうりゅうが度々、街や村にきて暴れるようになった。被害が甚大なため、不幸に見舞われた者たちは、なす術もなく混乱に陥る。

 この騒動に業を煮やしたポワロ八世王が、御布令之書ノウティフィケイションを出して、金竜討伐を呼び掛けた。

 布令それが王国中に知れ渡り、腕に自信のある探索者イクスプローラこぞって、アイスミント山岳の奥地へ赴くのだった。

 しかしながら、金竜と戦って勝てるような者は一人としておらず、多くが命を落とすに至る。やがて誰もが、討伐なんて不可能だと、すっかり諦めてしまう。


「どうしようも、なくなりましたのね?」

「いいや違う」

「え、違いますの!?」

「討伐が無理なら、金竜をなだめようと考える者が現れおった」


 ひょうは収まったけれど、厚い雲が広がったままで、厳しい寒さも残っている。

 オイルレーズンが足を止め、ふと空を眺める。


「今から晴れるわい」

「あら、そうですの!?」


 突如、雲に切れ間ができて、日の光が差してきた。


「あら、本当に晴れますわねえ!」

「ふむ」


 誇らしげな表情を見せるオイルレーズンである。

 キャロリーヌが、先ほどの話を続ける。


「それで、金竜を宥めるというのは、一体どういうことですの?」

「生きた山羊を供え、手懐てなずける策じゃよ」

「そうですか。生け贄にされるのはお可哀想と思いますけれど、ようやく、金竜の暴挙を阻止できましたのね?」

「いいや違う」

「あら、また違いますの??」

「肉なぞ食さぬ金竜に、山羊を与えたところで、どうにもならぬ。祭壇まで用意して進めた策は、まったくの徒労に終わってしもうた」

「そうですか。とうとう策が尽きましたのね……」

「いいや違う」

「えっ、まさか別の品目アイテムでも、お供え(オーファリング)しますの?」

「そうじゃとも。ヤムが金竜の大好物と知っておる者がおってな、その話がポワロ八世王に伝わり、祭壇に供えてみたところ、街や村の被害に遭うことが減った」

「まあ、それはよかったですわ」


 丁度、土塁の築かれている地点ポイントに到着した。

 お馬の背丈三つ分くらいの高さを、ショコラビスケが見上げて問う。


芋の酒(ヤム-スピリツ)がある祭壇ってえのは、これですかい?」

「そうじゃとも。樽が二つ置いてあるそうじゃから、ショコラが登って、一つだけ、向こう側に降ろしてくれるかのう?」

「へいへい!」

ロウプを結んで、慎重に降ろすのじゃよ」

「承知でさあ!」


 土を使って階段のように形を整えた部分があるので、そこへショコラビスケが足を乗せたところ、一瞬にして崩れ落ちてしまった。


「がほ!? 簡単に壊れますぜ??」

「ショコラの巨体は支えられぬのじゃな。仕方あるまい、崩れたところの土を、しっかり踏み固めて、斜面スロウプを造るがよい」

「了解でさあ!」

「それなら僕も手伝うよ」

「おうマトンさん、助かりますぜ!」


 二人が協力して、数分刻(ミニト)のうちに、土塁の上まで届く道ができた。

 ショコラビスケが登ってみると、フォカッチャが話していた通り、置き土産の酒樽バレルが二つあった。そのうち一つに綱を結びつける。

 風が吹いて、奇妙な音が鳴るけれど、ショコラビスケは気にしなかった。


 地面に残った三人とシルキーは、土塁の反対側に歩いてきた。

 この時、頭上から大きな声が響く。


「準備が整いましたでさあ!!」

「ならば、ゆっくり降ろすがよい」


 この声が上に届き、酒樽が少しずつ降りてきた。

 およそ二分刻で、ショコラビスケは無事に作業を終え、急ぎキャロリーヌたちのところへ駆けてくる。


「こいつを担いで運ぶのですかい?」

「いいや、横にして転がす方が楽じゃわい」

「おう、確かに仰る通りですぜ!」


 早速、ショコラビスケが樽を倒す。


「ですが首領キャプテンオイルレーズン女史」

「なんじゃな?」

「この祭壇は、難所じゃねえのですかい?」

「難所じゃわい」

「だけどよお、どこをどう見ても、ただの土塁でしたぜ」

「山羊の鳴くような音なぞ、してはおらぬかったか?」

「言われてみると、風が変なふうに鳴ってやがったなあ」

「それじゃよ。人族と魔女族が聞くと、偏執病パラノイアを患ってしまう。危険極まりのない音じゃわい」

「この俺は、なんともなかったですぜ?」

「竜族や獣族ならば、どれだけ聞こうと平気なのじゃよ」

「そうですかい」


 偏執病がどのような病気なのか、ショコラビスケは知らない。

 兎も角、一行が、生け贄(サクリフィシャル)山羊(-ゴウト)の祭壇を後にする。

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