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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》シシカバブ湖への険しい山道
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《★~ 凍てつく山道 ~》

 キャロリーヌたちも腰を上げて、シシカバブ湖を目指す。

 しばらくの間、急な傾斜の坂道を登らなければならない。この先にも危険が待ち構えているだろうから、シルキーは、上空からの監視を怠らない。

 吹き下ろす風が冷たく、次第に強まってきた。


「キャロルや、寒いじゃろう?」

「ええ、とっても」

「ならば、ショコラの後ろを歩くがよい」

「おうおう、この俺さまが、喜んで盾となりましょうぜ!」

「凄く助かりますわ」

「そりゃあそうでさあ。がっほほほ!」


 ショコラビスケの巨体が、防風の壁として大いに役立った。

 平民の蕎麦そば作地帯を後にしてから二つ刻という頃、空を飛んでいたシルキーが戻り、「前方から、フォカッチャ女史の率いておられる一団が、こちらへ向かって進行しています」と報告した。

 それから四半刻ばかりが過ぎ、キャロリーヌたちの目前に隊列が現れる。先頭に立つ数人は、柄の長いスピアを手にした偉丈夫である。

 男どもの間から、一人の老婆が歩み出てくる。他でもなく、防竜砦ヶ村の長老エルダ、フォカッチャだった。


「オイル婆さん、ずいぶんと久しぶりですな」

「確かにそうじゃのう」

「昨日は、伝書をシルキーに届けさせて下さり、助かりました」

「なんのなんの、そなたの役に立てたのでな、彼も喜んでおるわい」

「きゅい!」

「祝着ですな」


 フォカッチャは、満足そうな気色を見せ、さらに言葉を重ねる。


「ところでオイル婆さん、これから金竜討伐へと向かうのですね?」

「まさに、その通りじゃよ」

「でしたら、芋の酒(ヤム-スピリツ)を進呈しましょう」

「ほほう、ありがたいわい」

「シシカバブ湖の手前にある難所、生け贄(サクリフィシャル)山羊(-ゴウト)の祭壇と呼ばれる土塁をご存知かと思います」

「知っておるとも」

土塁それの上に、置き土産の酒樽バレルが二つありますゆえ、どうぞお使い下され」

「ふむ。遠慮なく頂くとするかのう」


 長々と立ち話をしていると身体が冷えてくるから、たとい名残惜しくとも、オイルレーズンは、フォカッチャに別れを告げた。

 歩き始めるとすぐ、ショコラビスケが目を輝かせて尋ねる。


首領キャプテン、芋の酒ってえのは、美味いですかい?」

「あたしらが飲むためのものでないわい」

「だったら、一体どこの誰が飲むのでさあ?」

「むろん、金竜じゃよ」

「がほっ! ガイは、酒なんか飲みやがるのかよ!」


 横からマトンが口を挟む。


「酔わせて、動きを鈍らせるのさ」

「がっ!? そんな卑劣な方法を使って戦おうだなんて、大陸一の剣士と讃えられておられる、マトンさんの振る舞いですかい!」

「いやあ、人族と剣で競い合うのなら、そんな真似、決してしない。あくまで相手が最強の凶竜きょうりゅうだから使う、一つの策だよ。普通に戦って勝てる見込みは、砂粒の大きさすらもないからねえ」


 二人の会話にオイルレーズンが割り込んでくる。


「ショコラが言ったのとそっくり同じような台詞ラインを、十七年前、ヴァニラビスケが、当時のマトンに言っておったよ」

「俺の親爺ファーザが同じことを!?」

「ふむ。あたしとマトンによる説得が功を奏し、ヴァニラは渋々ながら賛同した上で、金竜討伐に参加しおった。じゃが、酒で動きを鈍らせたにも拘わらず、ヴァニラは、命を落としてしもうた」

「そうですかい……」


 金竜の驚異的な強さを、改めて思い知るショコラビスケであった。

 突如、キャロリーヌが甲高い声を発する。


「きゃあ、痛いですわ!」

「キャロルや、どうしたというのじゃな!?」

「今、小石のようなのが、あたくしの頭に落ちましたの」

「おお、ひょうじゃ。雹が降ってきおったわい。ショコラや、あたしらのかさを用意してくれるかのう?」

「へい!」


 背袋リュックに三つの笠が結びつけてあり、ショコラビスケが紐を解いて、オイルレーズンたちに一つずつ渡す。頑丈な竹で編まれており、頭に載せて、雹が身体に衝突するのを防ぐ。

 シルキーも上空から戻って、急ぎマトンの肩に避難した。


「あら、ショコラさんは、笠をお使いになりませんの?」

「必要ありませんぜ。俺さまは、こんな氷の粒、痛くも痒くもねえですから!」

「まあ、ずいぶんお強いですわねえ?」

「おうよ!! がっほほほ!」

錬金アルケミ懐炉(‐ウォーマ)も、出してくれるかのう?」

「了解でさあ!」


 今度は、平たい布袋が三人の手に渡った。錬金術によって作られた代物アイテムで、携帯する小型の暖炉だという。水で濡らすと熱が発生して周囲へ広がるので、懐に入れておけば、身体を温かく保てる。

 これで雹と寒さに対する備えが整ったので、キャロリーヌたちは憂いなく、引き続き、凍てつく山道を進むのだった。

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