《☆~ 探索者や魔法の話 ~》
グリルとマーガリーナは、魔女の頼みごとを受けると約束した。
オイルレーズンの孫娘、ラムシュレーズンは、このメルフィル公爵家で今までと同様に養育されることが決まったのである。
そしてグリルが、また別のことを魔女に尋ねる。
「もしかしてオイルレーズンさんは、探索者なのでしょうか?」
「ふむ。そうじゃとも、ふぁっははは!」
オイルレーズンが得意気に笑い声を上げた。顎の調子もよさそうだ。
グリルが尋ねた「探索者」というのは、「冒険者」と呼ばれたりもする、一つの職種を意味している。その者たちは、並の人族ならまず足を踏み入れることができないような大陸の僻地にある山岳、密林、魔窟、呪われた廃墟や、大陸を囲っている海域といった危険地帯まで赴き、等級の高い品目を手に入れ、換金したり錬金術の素材に使ったりしている。それが彼らの生業だということ。
オイルレーズンの話によると、彼女を含めた四人で探索者集団を組んでいるそうだ。
そういう集団の構成員のことを「面子」と呼ぶらしい。オイルレーズンを除く三人の面子は男どもで、屈強な竜族が二人と、剣術に長けた勇敢な人族が一人いて、彼らは戦闘および護衛の役目を担っている。
グリルは、少年時代に冒険物語が好きで、探索者に憧れていた。
「四人の探索者集団とは、また少ない人数ですね?」
「少数精鋭ということじゃ。その方が収集品の分け前が多くなるからのう」
「なるほど、そうですか」
「ふむ。おお、そろそろ出立の刻限が近い」
オイルレーズンは、最後に少しの間、孫娘の顔を眺めることにした。
すやすやと眠っているラムシュレーズンに向かって、とても優しい口調で、小さく「隠密」と発した。
それによりグリルの目には、一瞬にしてオイルレーズンの顔が、より老けたように見えた。
魔女は溜め息をついて話す。
「ふぅ~。このような高等魔法を使うと、さすがに寿命が縮むのう」
グリルは不思議に感じており、この際だからと、思い切って尋ねてみることにした。
「失礼ですが、お顔に少し皺が増えたように見えますけれど?」
「ふむ。その通りじゃ。魔女は高度な魔法を使うと、命をすり減らすでのう」
つまり、魔法の副作用ということ。
グリルは気づいていなかったけれど、実は半年前のアタゴー山でも、ドライドレーズンが「催眠状態」と詠唱していたのである。それによって、パンゲア帝国の衛兵たちは暗示に掛かりやすくなり、簡単に騙せるのだった。
「それで今のは、どういう意味の言葉だったのでしょうか?」
「存在を隠蔽する魔法じゃよ」
「姿が見えなくなるという意味でしょうか?」
「いいや違う。魔女でなく、人族の女子に見えるだけじゃ。もしオリーブサラッドの手先どもが、ここへこの子を捜しにきおっても、魔女の存在が分からぬようにした。この効力は半月ばかり続く。それまでにはあたしが戻ってきて、今度こそは、このラムシュレーズンを、しかと返して貰うつもりじゃからのう。よろしく頼んだぞ、グリル殿よ」
「はい、お任せ下さい。どうぞ、お気をつけて」
「ふむ」
オイルレーズンは、グリルに白竜髄塩の小瓶をもう一本渡し、「これで時々なにか作り、ラムシュレーズンにも食わせてやって欲しい」と言った。当然のことグリルは快諾した。
こうして初老の魔女は、ローラシア皇国の北西にあるエルフルト共和国へ向かうのである。




