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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》シシカバブ湖への険しい山道
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《☆~ おそろしい霧の渓谷 ~》

 ブリオッシュが杖を突いて戻り、羊皮紙パーチメントをオイルレーズンに手渡す。それには、「竜魔枯がありましたゆえ、拙者たちは新しい村へ向かいます」とだけ簡潔に記されていた。この伝書をキャロリーヌが受け取り、細長く折り畳んだ上で、シルキーの脚に結びつける。

 準備が万端となったので、オイルレーズンが言葉を掛ける。


「フォカッチャに届けてくれるかのう」

「きゅい!!」


 シルキーが力強く答え、シシカバブ湖の方面へ飛び立つ。フォカッチャの居場所は知らないけれど、きっと空から見つけるに違いない。

 オイルレーズンがブリオッシュに問う。


「新しい村はどこかのう?」

「南の渓谷に沿って斜面を西へ登りますと、馬栗マロニエの樹林が広がっています。それを抜けましたところ、こことよく似た台地があります。竜魔枯はいつ起こるか分かりませんゆえ、拙者が生まれる以前より、新しい村に決められていたそうです」

「遠いのじゃろうか?」

「二つ刻ばかりを要します」

「ふむ。くれぐれも気をつけてゆくがよい」

「ありがとうございます。皆さまも、どうかご無事でいて下さい」


 ブリオッシュは頭を下げた後、速やかに立ち去る。杖を突いて歩く姿を見送りながら、キャロリーヌがつぶやく。


「まだ十一歳だそうですのに、とってもお強いですわ……」

「うん。僕も、つくづくそう思うよ」


 マトンが素直に同意した。

 その一方で、ショコラビスケが誇らしげに口を挟む。


「母ちゃんから聞いた昔の話ですがね、この俺も、生まれながらにして、なかなかに強かったようですぜ。がほほほ!」

「ショコラや、さっさと出立の仕度を始めるがよい」

「へいへい、承知でさあ!」


 仕度といっても、地面に置いていた背袋リュックを肩に担ぐだけで済む。

 キャロリーヌたちの進む北の方向にも谷があって、こちらは「霧の渓谷」と呼ばれる難所の一つである。

 オイルレーズンが、気を引き締めるよう、皆に注意を促す。


「この渓流はあまりに速いのでな、たとい生まれながらにして強いショコラであろうとも、落ちると命はないわい。くれぐれも、油断してはならぬ」

「おっ、おう、了解でさあ!」


 足場も悪いため、慎重に歩を進めているところ、霧が立ち込めてきた。

 三分刻(ミニト)もしないうちに、視界がまったく利かなくなり、一行は身動きの取れない状況に陥る。

 マトンが松明トーチに火を点け、辺りを照らしてみるけれど、明かりが濃霧に溶けるかのように衰えるので、数歩先すら見渡しようがなかった。


「こうなっては、晴れるのを待つより他はないわい」

「そのようですわね」

「本当におそろしい霧でさあ……」

「いいや違う」

「がほっ、違うのですかい!?」

「おそろしいのは、霧の後じゃよ」

「そりゃあ一体、どういうことでさあ??」

「岩が湿っておるのでな、足を滑らせて川へ落ちる」

「おうおう、確かにおそろしいでさあ!!」


 視界が戻ったからといって、喜び勇んで足を踏み出してしまえば、それこそ命取りとなる危険を招く。


 半刻ばかりが過ぎた頃、霧はすっかり消え去った。

 皆は、オイルレーズンの発した警告を肝に銘じており、先ほどよりもずっと慎重に歩を進める。それが功を奏し、誰一人として渓流に落ちたりしなかった。

 川の水が少なくなり、流れも緩やかな箇所ポイントに差し掛かったところ、ショコラビスケが胸を撫で下ろす。


「ようやく安全なところへこられたぜ、このくらいなら、落ちたって命に別状ねえでさあ。がほほほ!」

「いいや違う」

「がほっ、また違うのですかい??」

「川の底をよく見るがよい」

「おう、ありゃ沢蟹でさあ!」


 マトンが眉をひそめて話す。


「とてもおそろしい蟹だよ」

「どんなふうにおそろしいでさあ?」

「極めて強い毒を持っているのさ」

「この俺でもやられちまう強さですかい?」

「キミは以前、吸血鼠ブラディラトに噛まれたね」

「おうよ! あの時ばかりは、さすがの俺さまも死ぬかと思いましたぜ」

「ここの蟹は、たった一匹の毒で、数千もの吸血鼠に匹敵するよ」

「がっほ!!」


 ショコラビスケは当然のこと、他の者も引き続き、慎重を期して進む。

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