《☆~ 防竜砦ヶ村(二) ~》
キャロリーヌたちは、取りあえず昼餉を再開した。
料理は、山荘を出立する際に、トングが餞別として持たせてくれたもの。どれも美味だから、いわゆる「舌鼓」を打って味わう。
「この野菜汁は、粘り気があって濃厚ですわね」
「擂った芋が入っておるのじゃよ」
「こりゃ俺にとって、大切な風味だぜ!」
「あら、そうですの?」
「おうよ! 俺さまは、肉が一番の好物だから、つい忘れちまうけれど、肉の次に芋が好きなのでさあ。この野菜汁が思い出させてくれたぜ。がっほほほ!」
楽しげなショコラビスケである。
その一方で、キャロリーヌは、離れて待つ少女を気にしていた。
「ブリオッシュさんは、シシカバブ湖へ出向かれている長老さんと金竜討伐隊の方々を、心配しておいでなのでしょうね。お気の毒ですわ……」
「そうじゃのう」
「長老さんは、ブリオッシュさんのお爺さまに当たりますのね?」
「いいや違う」
「え、違いますの??」
「ふむ。長老は、フォカッチャという女性じゃからのう」
ここへショコラビスケが口を挟む。
「つまり、ブリオッシュさんの婆さんですかい?」
「そうじゃとも」
「だったら、爺さんの方はどうしたでさあ?」
「あたしが以前この地を訪れた折、フォカッチャの主人は他界したと聞いた。息子が一人おったが、それがブリオッシュの父親なのじゃろう」
「おうおう、後で尋ねましょうぜ!」
キャロリーヌが、ふと思った疑問を口にする。
「防竜砦ヶ村の方々は、どうして金竜討伐なぞに赴かれますの?」
「エルフルト共和国内で最大の芋作地帯だからね。金竜が麓へ下りないようにする、まさに砦としての役割を担っているのさ」
「マトンさんよお、金竜と芋作地帯に、どんな関係があるのですかい?」
「金竜は芋が大好物だから、収穫前の畑を食い荒らしにくるのだよ。すると村人が討伐隊を編成して、シシカバブ湖に赴き痛めつける。金竜も懲りるから、しばらく村にやってこない。次の収穫時期を迎えれば同じことが繰り返されるけれど、結果として、金竜を麓へ行かせないで済んでいるという訳さ」
このような説明を聞いたところで、キャロリーヌは得心に至らない。
「村の方々は、お芋が収穫できませんと、さぞお困りになりますでしょ?」
「いやあ、取り立てて困りはしていないと思うよ。芋は、金竜を誘き寄せるためだけに栽培しているのだからね」
「そうしますと、村での暮らしは、どのように支えられていますの?」
「エルフルト共和国が、十分な金貨を支給しているのだよ。そのお陰で生活するのには、なんら困りはしないのさ」
「そうですのね」
「畑を荒らしにきやがるなら、どうして、その場で討伐しねえのでさあ?」
これには、マトンに代わってオイルレーズンが答える。
「金竜を畑で怒らせると、村に甚大な被害が及ぶわい。辺り一帯が焼き尽くされてしまうでのう。そうならぬよう、わざわざシシカバブ湖まで討伐隊が赴いておるのじゃよ」
「おう、言われてみると、確かにそうでさあ。がほほほ!」
昼餉を済ませた後、一行は直ちに出立する。台地には広大な芋畑があって、その先に、防竜砦ヶ村があるという。
道中、ショコラビスケがブリオッシュに問い掛ける。
「フォカッチャさんの息子は、あんたの親爺さんでさあ?」
「まさしくその通りです。名をディニッシュと称します」
「がほほ、やっぱりそうだったぜ。親爺さんは息災ですかい?」
「三年前の今頃、命を落としました。金竜の業火で、丸焼きにされたのです」
「がほっ! 余計なことを聞いちまって済まないぜ!」
「拙者は平気です。父の後を継いで前線隊長という大役を担っておりますゆえ、誰よりも強くあらねばなりません」
ブリオッシュが笑顔で、誇らしげに話すけれど、その健気な姿を目の当たりにして、ショコラビスケの胸が痛むのだった。
「ずいぶんと昔だがよお、俺の親爺も、金竜と戦って丸焼きだぜ」
「それは、誠にお気の毒です」
「おっ、おう。あんたの親爺さんもな……」
とても気不味くなってしまい、しばらく誰も話さない。




