《☆~ 防竜砦ヶ村(一) ~》
キャロリーヌは、ちょっとした疑問を抱く。金竜が、どのような方法で山を大爆発させたのか。その際に現れた機械人形は、どうして大空を飛べたのか。トロコンブ遺跡にいた少女の人形は、その一つなのか。
これに対して、オイルレーズンたちが考えを述べる。
「なにしろ大昔のことじゃから、あたしらには、知る由もないのう」
「はい。言い伝えというのは、なにかと尾鰭がつくからものですし、どこまでが真実なのか、見極めは難しいと思います」
「俺さまよりずっと利口なマトンさんが、そう仰せになるのだから、俺さまの頭では、砂粒の大きさすらも分かりゃしねえぜ。がほほ!」
キャロリーヌの疑問は解消されないまま、オイルレーズンが、「さあて、休憩は終わりとするかのう」と号令を発して、一行は腰を上げる。
道が急激に険しくなるので、登山用命綱を身体に結び、ゆっくり進む。四人の頭上をシルキーが飛び、周囲に危険はないか、目を鋭く光らせた。
黙って半刻ばかり進み、岩の多い坂もようやく終わる。そして、開けた台地に達したところ、ショコラビスケが、大きなお腹を擦りながら問う。
「首領オイルレーズン女史、そろそろ昼飯の頃合いでさあ?」
「ふむ。六つ刻じゃから、ここらでまた、休憩を挟むとするかのう」
「おうおう、その言葉を待っていましたぜ!」
喜ぶショコラビスケに、マトンが話し掛ける。
「いつもながらキミは、昼餉の刻限を知らせる達人と呼ぶに値するね」
「マトンさんよお、そいつは逆ですぜ」
「えっ、一体どういう意味だい?」
「刻限の方が、俺さまに空腹を知らせてくれるのでさあ。がほほ!」
「なるほどね」
ここにキャロリーヌが、笑みを浮かべながら口を挟む。
「刻限が空腹をお知らせ下さるって、あたくしにもありますわよ」
「がほほ! キャロリーヌさんも、そうだったでさあ」
「はい」
「つまりよお、俺とキャロリーヌさんは、まったく同じってえ訳だぜ!」
「あ、あの、まったく同じというのでもなく……」
キャロリーヌは苦笑いして、ショコラビスケのお腹をチラリと見る。
兎も角、休憩しやすい場所へ移動して腰を下ろす。山荘で貰っておいた乾燥肉、麺麭、野菜汁を食し始めると、幼い少女が一人、杖を地面に突き立てながら、こちらに向かってきた。
「おう、マトンさんよお、ありゃまさか、機械人形ですかい?」
「いやあ、そんなはずはないだろう」
キャロリーヌが少女に話し掛ける。
「あたくしはキャロリーヌ‐メルフィルですわ。あなたは?」
「拙者、防竜砦ヶ村、長老が第一番目の孫にして前線隊長、名をブリオッシュと称します」
少女は、杖で身体を支えながら、深々と頭を下げる。
「お若いようですのに、隊長さんでいらっしゃるのね。あたくしたちになにか、ご用でもありますのかしら?」
「配下の斥候より、探索者集団と思しき人族と亜人類が四名、並びに白頭鷲の一羽が目下、接近中と申し送りのありましたゆえ、前線隊長である拙者が拙い足にて、お出迎えにまかり越しました次第です」
オイルレーズンが横から、少女に労いの言葉を掛ける。
「ご苦労じゃった。足は痛まぬかのう?」
「お気遣いのほど、かたじけなく存じます。なれど、なんのこれしきです」
「ほほう、さすがは長老の孫じゃわい。ふぁっははは!」
「旧知の間柄でいらっしゃいますのね」
「いいや違う」
「え、違いますの!?」
「彼女と会うのは、今日が初めてじゃわい」
「あら、そうでしたか……」
てっきり二人が知り合い同士なのだと思ったけれど、いわゆる「早合点」に過ぎなかった。
「あたしが以前、この地を訪れたのは、十七年ばかり昔じゃった。当時、そなたは生まれておらんかったじゃろう?」
「まさしくその通りです。拙者、齢十一ですゆえ」
「時に、長老は息災かのう?」
「十五日前、金竜討伐隊を率いてシシカバブ湖へと出向き、まだ戻りません」
「そうじゃったか。無事であればよいがな」
「まさしくそう祈ります。あっ、お食事のところを遮ってしまい、大変申し訳ございませんでした。あちらにてお待ち申し上げますゆえ、拙者に構うことなく、どうぞお続けなさいませ」
ブリオッシュは、お辞儀した上で、少しばかり離れて待機する。




