《☆~ 金竜に纏わる伝説 ~》
アイスミント山岳は、五千年あるいは一万年ともいう遙かな昔、大空を突き破る高さを誇っていたとされている。
いつしか、空の上を探索する目的で、人族が多く踏み込むようになった。
美しく穏やかな山岳が、広い範囲に渡って荒らされる。それがため、この地帯を守る金竜の怒りが頂点に達し、人族たちを戒めるために大爆発を起こす。山頂が大きく崩れてしまい、巨大な穴が広がる。永い年月を経るうちに、そこへ水や泥が溜まり、やがてシシカバブ湖ができ上がった。
キャロリーヌは、この逸話を聞いて、壮絶な光景を思い描きながら、率直に感想を述べる。
「遠い大昔、そのように劇的な物語がありましたなんてこと、あたくし、とっても驚きましたわ!」
「ふむ。金竜に纏わる伝説として、アイスミント山岳だけでなく、広く大陸の各地で語り継がれておるのじゃよ」
「あたくしたちが、こうして山に足を踏み入れてしまい、金竜は、きっと激しく怒りますわね?」
「まさしく、怒り狂うに違いない。じゃが、その怒りが大きければ大きいほど、得られる逆鱗の質も高まる」
ここにショコラビスケが、威勢よく口を挟んでくる。
「だったら存分に怒らせた上で、極上等の逆鱗を奪ってやりましょうぜ!」
「ショコラや、怒らせ過ぎて丸焼きとなってしまわぬよう、くれぐれも気をつけるのじゃよ。ヴァニラの二の舞いじゃからのう」
「がほほ、了解でさあ……」
金竜の吐く灼熱の業火で、父親が命を落とした。ショコラビスケは、幼い頃に知らされた悲劇を思い出すと、どうしようもなく気分が滅入ってしまう。
一方、キャロリーヌは、トロコンブ遺跡の五階層で遭遇した機械人形の杖が気に掛かっている。
「赤熱光は、一体どのように生じますのかしら?」
「鉄の刃を一瞬にして溶かしおったからのう。自然の炎では無理じゃし、そうかといって、魔女族が放つ雷金光の類でもないわい」
オイルレーズンですら、あのように強烈な赤熱光を放つ魔法具は、長い生涯で初めて目の当たりにした。そもそも、たった一日だけですべてを調べ尽くせる訳もなく、ほんの僅かを知ったに過ぎない。
「おそらくパースリたち全世界学者の集団が、改めて調査するじゃろう」
「僕は、ヴィニガ子爵の話された推察が気になります」
「機械人形が、人族を殺めるということかのう?」
「はい、まさしくそれです。あんなにも危ない機械が多く集まって部隊になれば、人族にとって、大きな脅威になります……」
「ふむ。それが杞憂のまま、済んでくれればよいがのう」
横からショコラビスケが話す。
「首領もマトンさんも、深刻に悩まねえで下せえ。たとい機械人形の部隊が攻めてきやがっても、片っ端から壊せばいいだけでさあ。がほほほ!」
「ショコラの考えは、いつもながら単純でいいね」
「マトンさんよお、俺を褒めてくれたところで、なにも出しませんぜ?」
「いやいや、さすがにキミから、なにかを貰おうだなんて、僕は砂粒の大きさすらも考えてはいないよ」
「おうおう、そりゃあ助かったぜ。なにしろ俺も、進呈できるような品とか、ほとんど持ってねえですからねえ。がほほほ」
「ショコラビスケさんらしいですわねえ。うふふふ」
「キャロルの言っている通りだよ。あはは」
「そんなに褒められると、この俺さまも困っちまうぜ。がっほほほ!」
愉快に笑い合う三人を前にして、オイルレーズンが神妙に話す。
「金竜に纏わる伝説には、驚くような結末があるのじゃよ」
「がほっ、そりゃあ一体、どんなことでさあ!?」
「あたくしも、お聞きしたいですわ」
「僕もキャロルと同じ気持ちですよ。是非、お話し下さい」
三人が興味を抱き、揃ってオイルレーズンに視線を浴びせる。
「金竜の起こす大爆発で、山の中から、沢山の機械人形が出てきおった」
「あらまあ、そんなこともありますのね!」
「機械人形は、どうなったでさあ?」
「大空に高く飛び、すっかり消え失せたのじゃよ」
「がほっ!?」
「うーん、確かに驚くような結末ですね……」
「あたくしも、そう思いますわ」
本当に奇妙な伝説だった。




