《★~ 謎めいた機械人形 ~》
マトンが「鎖鎌殿、危ないよ!」と叫ぶ。当のジャンバラヤ氏は、それくらい百も承知しているから、素早く身体を翻そうとする。
しかしながら、杖の先端から放たれた光は、どういう訳か、二つに分岐して急激な曲線を描くのだった。二本の赤い矢のように飛んできて、ジャンバラヤ氏を挟み撃ちにする。
「ぐっあ!!」
なす術もなく右太腿と左肩を射貫かれ、倒れて気を失った。
一方、少女の姿を模した機械人形が、止めを刺そうという魂胆なのか、非情にもジャンバラヤ氏の頭部に杖の先端を向けている。
マトンが「ショコラ、鎖鎌殿を頼む!」と言葉を発して駆け出した。ショコラビスケは、「おうよ!!」と答え、急ぎジャンバラヤ氏の元へ向かう。
キャロリーヌは、あわてた様子で二の足を踏んでいる。
「どう致しましょう!!」
「落ち着くがよい。あたしらは今すぐ、ここを離れるのじゃよ」
「はい!」
「きゅい!」
オイルレーズンが部屋の外へ向かうので、キャロリーヌとシルキーも後に続いた。
マトンは、機械人形に狙われている。杖から放たれた赤熱光が、先ほどと同じように二本の矢となり、横から向かってくる。それらが身体に当たる寸前に床を蹴って空中へ逃れる。
二つの光は、衝突して消える。この隙に、ショコラビスケがジャンバラヤ氏を背負い、うまうまと逃れていた。
機械人形が追ってこないので、一同は、四階層で足を止める。
「急ぎ、お怪我を治しませんと!」
キャロリーヌが、ジャンバラヤ氏の右太腿と左肩に治癒魔法を施す。
「まだ意識を、お戻しになりません……」
「このまま連れ帰るとしよう。ショコラや、運んでくれるかのう?」
「へいへい!」
四半刻ばかり後、一行は山荘に戻った。
ジャンバラヤ氏は、今なお気絶しており、トングに事情を説明して、医療学者に診て貰う。
食堂に移動したキャロリーヌたちは、氷薄荷茶を飲んで一息つく。
話題に持ち上がるのは、先ほど経験したこと。あの謎めいた機械人形は、オイルレーズンにとって、物語に存在するだけの魔法具で、いわゆる「空想の産物」に過ぎなかった。他の者は今日初めて知り得た。
「突如あれと遭遇し、あたしゃ魔女の血が騒いだわい」
「はい。あたくしも、どうなるかと、気が気でありませんでしたわ」
「首領、鎖鎌殿は助かるのでしょうか?」
深刻な気色でマトンが尋ねたけれど、オイルレーズンは、首を横に振らざるを得ない。
「機械人形が杖から放ちおった赤い光に、一体どのような魔法の効果があるのか分からぬのじゃから、アンドゥイユがすぐに意識を取り戻せるのかどうか、分かりようもないわい」
「俺たちは、この先どうするのですかい?」
「予定しておったように、シシカバブ湖へ向かうつもりじゃが、その前に、今日の事態を、パースリに伝えておくとしよう」
「ヴィニガ子爵さんは、優秀な全世界学者ですものね」
「ふむ」
オイルレーズンが伝書を用意して、シルキーに託す。
夕刻を迎えても、ジャンバラヤ氏は目醒めなかった。医療学者が、「命に別状はなさそうですが、意識の戻る兆しは、今なお、まったく見られません」と説明してくれた。
その後、シルキーが、パースリからの返信を携えて戻った。早速、オイルレーズンが読む。
「やはり、ここへ調査しにくるようじゃ。ふぁっはは!」
「おうおう、しばらく足止めですかい?」
「そうじゃのう」
兎も角、シシカバブ湖へ向けての出立が先延ばしになった。
二日後、パースリが山荘に到着し、オイルレーズンの集団と一緒に、トロコンブ遺跡へ赴く。この若い全世界学者は、機械人形を相手に、色々と実験的に調べた。それは危険だったけれど、誰も怪我をしないで済んだ。
調査の結果、杖から放たれる赤熱光は極めて熱く、金属を溶かし、木を焼いて炭にする効果を持つのだと判明する。
狙われるのは、いつもマトンとパースリだった。他の者が近づいても、赤熱光は放たれない。ショコラビスケとシルキーが攻撃を試みたところ、機械人形は杖を構えて応じる。
パースリは、それらを総合して、「機械人形は、人族を殺めたいのではないか。亜人類や鳥には、攻撃される場合に限って反撃するのだろう」と推察した。
翌日になって、ようやくジャンバラヤ氏が意識を取り戻す。しかしながら、彼は自身が誰であるかすら覚えていなかった。
これに対して、「あの赤熱光には、記憶の一切を奪う効果があるのではないか」とパースリが意見を述べた。
ジャンバラヤ氏は記憶を失ったまま、パースリに連れられて、実家のあるアラビアーナの街に帰ることとなった。
オイルレーズンの集団は、明日いよいよシシカバブ湖へ向かう。