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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》金竜の棲むアイスミント山岳
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《★~ トロコンブ遺跡(六) ~》

 この山岳地帯で、キャロリーヌたちが六日目を迎えた。朝餉を済ませて、仕度も万端に整い、トロコンブ遺跡へ向かって出立する。

 昨日は、四階層まで進んだ。魔獣化した小型の黒毛(ブラック‐)鼬鼠ウィーズルが沢山いて、討伐を終える頃には、夕刻を迎えつつあった。いよいよ今日、最上階へ赴くということで、一同は、少なからず緊迫感を漂わせながら歩く。

 キャロリーヌが眉をひそめて問い掛ける。


「おそろしい大型の獣が棲んでいますのかしら?」

「三十五年ばかり昔にきた折、五階層では、魔獣化した灰色熊(グリズリ‐ベア)と遭遇した」

「討伐できましたの?」

「ふむ。大勢で協力し、辛うじて一頭を仕留めた」

「おうおう、俺さまの親爺ファーザも、素晴らしい働きをしたに違いないでさあ!」

「ヴァニラビスケは噛まれてしまい、大声で泣いておった」

「がほっ、そりゃあ本当で!?」

「もちろんじゃとも」

「がほほほ、親爺……」


 他愛のない会話をしているうちに、遺跡の入り口に着く。トングが纏めてお代を支払ってくれているので、速やかに入場できた。

 この山城が造られたのは、二千と数百年の昔で、まだ錬金術者アルケミストの数が少なく、調合できる混凝土コンクリートの量も僅かだった。そのため、材料には、山から切り出した自然の岩石を使っている。

 巨大な石を積み上げる際、隙間ができないように加工するなど、色々と工夫が凝らされたという。それでも永い年月を経ると、割れたり削れたりして、()()ができてしまう。


もろい箇所が多くなっては、床や壁の崩れる危険が生じるわい」

「まあ、いけませんわねえ」

「じゃから、この地の者たちが、接合剤セメントを使って修理を続けておる」

「大変なご苦労をなさっておいでなのね……」


 キャロリーヌは胸の内で、アイスミント山岳民族に敬意を表した。

 魔植物が伸びており、昨日と同様、先頭に立ったジャンバラヤ氏が、鎖鎌を自在に繰り出し、障害となる要因を刈り取りながら進む。万が一の事態トラブルに備え、いわゆる「退路」を確保するのである。


「先日の竜族たちには、こういう地道な準備が欠けておったのじゃろうな」

探索者イクスプローラにとって、第一に必要なのは、生きて戻ることですものね」

「その通りじゃよ。決して忘れてはならぬ」

「はい!」


 三階層には、魔獣化した山猫の姿が二つだけあった。ショコラビスケが即座に対処する。

 魔獣は、三回ほど気絶させられると、たいてい元の自然な姿に戻る。できる限り動物の命を奪いたくないと考えるショコラビスケは、殴る力を抑えるように心掛けている。

 それから四階層を通り過ぎ、石の階段を登り詰めたところ、獣の潜んでいるような気配は、まったく感じ取れなかった。


「今日はおらぬようじゃな」

「拍子抜けだ! 灰色熊がいたら、オレさまが相手してやったのに!」


 ジャンバラヤ氏が、苦笑いを浮かべながら気焔きえんを吐いた。

 それでも警戒だけは怠らず、一行は奥の間へと進む。先頭にいるマトンが真っ先に気づく。


「あれっ、誰かいるよ!」

「おうおう、魔女族の子供ですかねえ??」


 怪訝そうな表情のショコラビスケである。

 当然のこと、他の者も皆、「どうして少女がたった一人、こんな場所にいるのだろう?」と不思議に思わざるを得ない。

 身体はキャロリーヌより少しばかり小さいようで、人族年齢だと十三歳くらいに見える。

 相手も、こちらの存在に気づいたらしく、ゆっくり頭を動かす。右手に奇妙な杖を握っており、顔面は蒼白く、一切の感情が窺えない。その異様な姿に眼差しを向けながら、オイルレーズンが低い調子で囁く。


「まさか、機械人形オートマタかのう……」

「一体なんですかい??」

「人族や亜人類の姿を模した魔法具インストルメントの一種じゃよ」

「どうして、そのような機械ものが、ここにありますの?」

「こればかりは、あたしにも分からぬわい」


 鎖鎌を掲げたジャンバラヤ氏が、意気揚々と歩み出る。


「よおし、オレさまが確かめてやる!」

「アンドゥイユや、くれぐれも気を緩めてはならぬよ」

「大丈夫です。オイルレーズン女史は、高みの見物をしていて下さい」


 ジャンバラヤ氏は、綽綽しゃくしゃくの余裕顔で進む。

 突如、少女が杖を水平に持ち上げ、赤色の輝きを発する。


「うわぁ、熱い!!」


 鎖鎌の刃が溶けてしまい、液状となって床に流れ落ちた。

 そして、機械人形の杖から、再び赤熱光(グロウ‐レイ)が放たれる。

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