《★~ トロコンブ遺跡(四) ~》
キャロリーヌたちは、今夜も豪勢な料理の置かれた食卓を囲む。
楽しげな夕餉が続くところ、使用人がやってきて、遠慮がちに話す。
「お食事中に失礼しやす。お客人さまがお越しやす」
「あたしらに、誰か会いにきおったのか」
「そうでやす。ここへ今すぐお連れしやして、よろしやす?」
「ふむ」
オイルレーズンが、仕方なく首を縦に振った。
少しして、見知った男が姿を見せる。
「おうおう、誰かと思えばジャンバレルさんかよ」
「ジャンバラヤだぁ!!」
「こりゃまた失礼したぜ。がほほほ」
「おいショコラビスケ、三十七日前にも同じ間違いをしただろ!」
「がほっ、そんな大昔のこと、覚えちゃいねえでさあ……」
「オレさまは指折り数え、今なお、しっかりと覚えているのだ!!」
渋面で怒鳴り声を放つジャンバラヤ氏に、オイルレーズンが問う。
「アンドゥイユや、牢獄塔に入れられておったはずが、どのようにして抜け出せたのじゃな?」
「母が金貨を千枚支払ってくれたお陰で、ようやく釈放されました」
「ほほう、あの強欲なキャビヂグラッセがのう。じゃが、わざわざこんなところに赴いてくるとは、なに用じゃな?」
「まずは先日の非礼を、心よりお詫び申し上げます」
ジャンバラヤ氏は、メン自治区からローラシア皇国へ向かう道で働いた、キャロリーヌたちに対する裏切り行為を謝罪すると同時に、「本心ではなく、大切な姉さんを守り抜くために、苦渋の選択を迫られた結果、やむを得ずしたことだ」という弁解の言葉を述べた。
その上で、彼は、オイルレーズンに向かって頭を下げ、一つ願い出る。
「どうか、探索者集団の面子に加えて下さい!」
「なにが目的なのだい?」
横からマトンが問い掛けた。
「オレは、パンゲア地下牢獄から姉さんを救い出す望みだけを生きがいと感じて、毎日を暮らしていた。だから、鎖鎌の腕を磨く鍛錬にも打ち込んだ。もちろん鎖鎌の刃もよく磨いた。いざという時に、技不足だったり、刃が鈍っていたりするせいで、大切な姉さんを救う機会を逃してしまっては、それこそ一生の不覚になるからなあ。そして先日、とうとう願いが叶い、凄く嬉しかった!」
熱く語り続けるジャンバラヤ氏である。
ショコラビスケは退屈で仕方ない。それでも、先ほど名前を間違えたという、いわゆる「負い目」を感じているので、我慢して聞くしかなかった。
「だが嬉しいと思う気持ちの中に、なぜか大きな穴が開いてしまったと感じるようになった。一体どういうことかと懸命に考えてみて、オレには新しい生きがいが必要なのだと分かった。それで一流の探索者になってやろうと決めた。このオレさまが、オレさま自身に与えた、次の生きがいだ!!」
ジャンバラヤ氏の熱弁が終わり、オイルレーズンが穏やかに問う。
「一つだけ聞いておきたい」
「オレの知るところであれば、なんだってお答えしてみせましょう!」
「ふむ。アンドゥイユとラディシュは、あの折、キャロルをラムシュレーズンと呼んでおったが、果たして誰じゃな?」
「このオレですら分かりません。おそらく姉さんもだと思います。そう呼べば動揺を誘えるのだと、アニョンピクルから教わったのです」
「あら、どなたですの?」
キャロリーヌが率直に尋ねた。
これにはオイルレーズンが直ちに答える。
「アニョンピクルは、賊どもの首領をしておった魔女族の名じゃよ」
「あたくしたちを襲撃なさるために、薄薔薇花飛竜に乗っておいでになった、アニョン‐ピュアレイさんですわね」
ようやくキャロリーヌが得心した。
一方、ジャンバラヤ氏がオイルレーズンに視線を浴びせている。つまり、先ほどの申し出に対する返答を促しているのだった。
「アンドゥイユを面子として迎え入れるか、皆は、どう考えておる?」
「あたくしは賛同しますわ」
「きゅい!」
キャロリーヌとシルキーは即答した。
続いてマトンも答える。
「僕はどちらでも構わないよ」
「首領、俺の時は、見習いから始めたでさあ。ジャンバラヤさんも、そうした方がよくねえですかい?」
「ふむ。ショコラの提案に従うとするかのう」
「どのようになれば、正式に採用して貰えるのでしょうか?」
ジャンバラヤ氏が単刀直入に質問した。
対するオイルレーズンは、迷わず答える。
「明日と明後日、トロコンブ遺跡での魔獣討伐に加わるがよい。その働き次第で、どうするか決めよう」
「はい、望むところです!」
晴れやかな笑顔を見せるジャンバラヤ氏だった。




