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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》金竜の棲むアイスミント山岳
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《★~ トロコンブ遺跡(三) ~》

 食卓には、根菜と笹栗の炊米飯ピラーフ、塩をふり掛けて焼いた山女魚ブルクトラウト発酵豆油ソイソースの味をつけた蒸しヤム、笠茸のスープ、および乳酪(バタ‐)巻き麺麭(ロールパン)と野菜汁が置かれていた。

 追加で牙猪ボーの生肉も用意して貰い、ショコラビスケはもちろんのこと、シルキーも喜んで食した。

 夕餉を終えた後は、今夜もトングが加わり、氷薄荷茶(アイスミント‐ティー)を飲みながら過ごす。

 パンゲア帝国で起きていた大動乱アプヒーヴァルが話題に持ち上がり、オイルレーズンが説明しているところ。


「帝国内の騒ぎそのものは、ローラシア皇国が派遣した部隊の働きがあって、もう収まっておるようじゃが、以前と同じ状況に戻った訳でもない。国外へ逃れる若者も多いらしい。帝国の王室にしてみれば、相当に深刻な事態じゃろうな」

「まさに、首領キャプテンの仰る通りだと思います」


 マトンは、神妙な表情を見せる。

 その一方で、キャロリーヌが率直に問う。


「帝国で竜族兵が減りますと、悪い事態ですの?」

「俺も()()が疑問だぜ! なにしろ、帝国の領土に束縛されていたガイたちを救い出そうと、俺たちが苦労に耐え抜いて魔石を粉砕したのには、パンゲアの兵力を削ぐ狙いもあったはずでさあ。それがうまく功を奏したってえのに、喜ばしくないのですかい?」

「予想を大きく上回って、功を奏し過ぎてしもうた。なにごとにおいても、均衡バランスは大切じゃからのう。今のように帝国王室の力が弱いと、再び大きな動乱があるかもしれぬ」

「騒ぎが起これば、皇国が手助けすれば済むでさあ?」


 この問いには、オイルレーズンに代わってマトンが答える。


「いつ動乱が起こるか分からない状況は、なかなかに困るのだよ。例えば、小麦も高価となるだろうし」

「がほっ、()()ですかい??」

「そうだよ。ショコラがさっき十個も食した乳酪巻き麺麭にしても、作るためには小麦が必要だから、同じように高くなってしまうのさ」

「マトンさんよお、俺は、牛肉が高くなけりゃ、そんなに困りはしませんぜ?」

「いや、なにも小麦だけに限ったことじゃないよ。牛たちの食す草も高くなり、それがため、牛肉だって値が上がるからね」

「おうおう、そいつは大いに困っちまうぜ!!」

「あたくしは、食材の高騰も少なからず心配になりますけれど、動乱の起こるために、多くの方々がお怪我をなさってしまうのが、一番に気掛かりですわ……」


 深刻そうな顔面のキャロリーヌである。


「キャロルの言う通りじゃわい」

「おうおう、俺もまったくそうだと思いますぜ!」

「兎も角、今夜のところは早く休むとしよう。明日、あたしらは山登りをするのじゃからな。ふぁっはは!」

「はい、そうですわね」


 夜が更けてきたので、一同は、それぞれ部屋で眠りに就く。

 次の日、キャロリーヌたちが出立する頃、竜族の五人集団は、既にトロコンブ遺跡へ向かって、樹林フォレストの中を意気揚々と進んでいた。


 ・   ・  ・


 夕刻、山荘コティヂにキャロリーヌたちが戻ってくると、トングが待ち侘びていた。


「オイルレーズン女史!」

「そんなにも深刻な顔をして、一体どうしたのじゃ?」

「お聞き下さい!」

「しっかり聞いておるわい。じゃから、落ち着いて話すがよい」

「はい、済みません。竜族たち五人の集団は、今朝、張り切ってトロコンブ遺跡へ向かいました。それが、一つ刻もしないうちに帰ってきたのです。しかも皆、少なからず怪我を負っていました!」

「魔獣討伐は、失敗フェイリャに終わったというのか?」

「はい、その通りでございます。大失敗ですよ、まったく!」


 トングは、早口で詳しく話す。探索に出向いた竜族たちは、遺跡を順調に進むけれど、三階層で遭遇した中型の魔獣から攻撃を受け、辛うじて逃げ延びてきた。使用人の中に医療メディカル学者(‐スコラ)がいて、急ぎ治療を施した。五人は、泣きながら休息して、その後、中腹門に向かったという。


「今頃はもう、街の宿屋に着いているでしょう」

「ふむ。それならば仕方あるまい。約束しておった通り、魔獣討伐は、明日からまた、あたしらが引き受けるとしよう。やれやれ……」

「もっと()のあるガイたちかと思ったけどよお、案外、他愛のない駆け出し連中に過ぎなかったぜ。がほほほ」

「でも、お命を落とされなかったのは、なによりと思いますわ」

「その通りじゃわい」


 結局、あと二日間、山荘で滞在することが決まった。

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