《★~ トロコンブ遺跡(二) ~》
夕刻、キャロリーヌたちが山荘に戻ると、辺りが少し賑やかだった。
「あら、あちらにおられる方々もお泊りかしら?」
「どうやら、そのようじゃな」
竜族の若者が五人集まっており、その先頭に立つ者が鋭い視線を浴びせながら、ショコラビスケに言葉を放ってくる。
「ひょっとして、お前たちも探索にきたのか?」
「おうおう、よくぞ聞いてくれたぜ。この俺さまは新進気鋭の探索者、ショコラビスケだ!」
「がははは。新進だかどうだか知らないけど、婆さんと嬢ちゃんに加えて、細っちい人族が一緒の集まりじゃ、ろくな探索ができないだろうな」
彼は、顔面をニヤリとさせた。すると、後ろにいる彼の仲間たちが、いっせいに笑い声を上げる。
対するショコラビスケは、怒りの感情を抑えながら言い返す。
「奴たちこそ、若造だけで、よくぞここまでこられたものだぜ。それは褒めてやってもいいけどよお、中腹門で、ちゃんと謎を解いたのかい?」
「いやそれは……」
「さては、解けなかったな。俺さまは正しく解けたぜ! がっほほほ~」
「威張るな! 金貨さえ支払えば、誰でも通れるのだからな!」
悔しそうな表情を見せる相手に、ショコラビスケが追い打ちを掛ける。
「おう、もう一つ教えてやる。見た目は、確かに婆さんと嬢ちゃんと細っちい人族だがよお、皆さん、なかなかに有名ですぜ? 特に、こちらの婆さんは、顔面に皺こそ多いが、大陸で一番に優秀な魔女族、オイルレーズン女史だからなあ!」
「戯け!!」
「がっほ??」
不意に叱責の声が耳へ入り、ショコラビスケは、たじろかざるを得ない。
一方、オイルレーズンが歩み出て、穏やかな口調で問う。
「あんた方、どこからきなさった?」
「オレたちは五人とも、パンゲア帝国で生まれ育った。この前までは衛兵団の竜族兵だったけど、帝国内で大きな騒ぎがあったから抜け出した。巻き込まれたくないからな。それでこれからは探索者の道を進む。手始めとして、トロコンブ遺跡に挑もうと奮起してきたのだ」
「なんだお前ら、ただの駆け出しじゃねえか。がっほほ!」
「ショコラや、しばらく黙っておるがよい」
「へいへい、承知でさあ」
ショコラビスケが口を閉じ、オイルレーズンが引き続き話す。
「トロコンブに入るには、三百枚ずつ金貨が必要じゃと知っておるか?」
「もちろんだとも。オレたちは給金を貯めたからな、それをふんだんに使い、探索者の第一歩を踏み出す。なにか文句があるか?」
「いいや、砂粒の大きさすらもないわい。せいぜい励むのじゃな。ふぁっはは」
ここへトングと使用人がやってくる。
「お五人さん、居室と夕餉の仕度が整いました。あちらへどうぞ」
「よおし分かった。婆さんたち、それじゃあな」
竜族の集団は、使用人に連れられて建物へ向かう。
咄嗟にオイルレーズンが呼び掛ける。
「トング殿」
「はあ、なんでございましょう?」
「今の五人は、トロコンブ遺跡を探索したいらしいでな、魔獣の討伐を、彼らに任せようと思う。どうじゃろうか?」
「ですけれど、あの者たちに果たせますでしょうか……」
「やらせてみぬことには分からぬわい。明日の夕刻、討伐がどうじゃったかを尋ねて、失敗に終わっておるのなら、その次の日からまた、あたしらが引き受ける。それでよいかのう?」
「ええまあ、オイルレーズン女史がそう仰せでしたら、オイラとしては、拒絶する訳にも参りません。そういう約束と致しましょう」
「ふむ、決まりじゃな。明日は山を登ってくるとしよう。もう少し高いところで、身体を慣らしておかねばならぬでのう」
「承知しました」
トングはお辞儀してから、そそくさと建物に戻る。
「あの奴ら、首領オイルレーズン女史を知らねえみたいだったぜ。まったく、身のほど知らずの連中ってえ訳でさあ」
「ショコラや、稲穂は豊かに実るほど、頭を下げるものじゃよ」
「がほっ、そりゃあ一体どういう意味ですかい??」
これには、マトンが返答する。
「偉くなるほど、謙虚な姿勢で他の者に接するということだよ。さっきのショコラみたいに謎が解けたとか、大陸で一番だとか、自慢したりしないのさ」
「おうおう、肝に銘じておきますぜ!」
「さあてキャロルや、夕餉にしようかのう?」
「はい、そうしましょう!」
キャロリーヌたちも建物に入るのだった。




