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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《☆PART7 危険な金竜討伐探索》金竜の棲むアイスミント山岳
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《★~ 驢馬の山岳風焼き肉 ~》

 日の光が弱まるにつれ、あちこちから魔夜鷹まよたかの怪しげな鳴き声が響く。

 ショコラビスケが、神妙そうな表情で話す。


「あの音を近くで聞いちまうと、子供は精神を悪くするぜ」

「ははは、そんなの百も承知さ」

「一分刻(ミニト)でも早く、山荘へ帰った方がよくねえですかい?」

「オイラなら、これを使うから平気だよ」


 トングは、民族衣装の小物袋パケトから木の実を二つ取り出して、耳の穴を塞ぐ。


「おうおう、そんな道具アイテムを用意してたのかよ!」


 この時、どういう訳か、茂みが妖しく輝いた。

 ショコラビスケが真っ先に気づき、あわてて知らせる。


「おう、なにかいやがるぜ!!」

「え!?」


 キャロリーヌたちが、いっせいに視線を向けた。

 次の瞬間、茂みの中から、黄色い光を放つ獣が姿を現す。マトンが剣を構え、突進してくる相手と向き合う。


「えやっ!」


 獣は、魔獣骨剣で首を貫かれ、「ひひぃん!」といななき、地面へ転がる。同時に、眩い輝きは消えてしまった。

 注意を促したショコラビスケと俊敏に対処したマトンのお陰で、誰も怪我をしないで済んだ。

 オイルレーズンが、目を細めながら話す。


「キャロルや、これも珍しい獣の一つ、発光ルーミナス驢馬(‐ドンキー)じゃよ」

「あら、そうでしたのね」


 キャロリーヌが腰を落として見たところ、地面に横たわる獣は、まるで眠ったように穏やかな表情で、とっくに絶命していた。


「驢馬の肉は久しぶりだぜ!」

「ショコラや、運んでくれるかのう?」

「へいへい、承知でさあ!」


 ショコラビスケが、発光驢馬を軽々と担ぐ。


「さあて、獲物も手に入ったのじゃから、さっさと帰ろうか。ふぁっはは!」

「ええ、そうしましょう」


 こうしてキャロリーヌたちは、進んできた道を引き返す。

 トングが一緒に歩きながら、オイルレーズンに問い掛ける。


「今夜は、どこかにお泊りでしょうか?」

「ふむ。少し戻ったところにある、大木の小屋じゃよ」

「もしよろしかったら、オイラの住む山荘コティヂに、皆さんでご宿泊になってはいかがでしょうか。もちろんのこと、金貨をお支払いになる必要など、毛頭ありません。足の怪我を治して貰ったお礼ですから」

「嬉しい申し出に違いないが、そのような話を、子供が勝手に決めてよいものじゃろうか?」

「なんら支障はございません。なにしろ、山荘を営むのは、他でもなく、このオイラ自身ですから」


 得意気な表情を見せるトングであった。

 ここへショコラビスケが口を挟む。


「山荘は、痩せ細った婆さんが管理していたはずでさあ?」

「オイラの祖母だよ。長い間、ずっと重い病に苦しみ、七日前に、とうとう他界してしまった。オイラが、たった一人の身内だから、山荘を引き継いだのさ」

「それなら決まった。数日間、よろしく頼むぜ。がほほほ!」


 急きょ宿泊の場所が変わり、向かう途中、大木の小屋に立ち寄って、マトンとショコラビスケが荷物を運び出す。

 シルキーも連れてしばらく歩き、山荘に到着した。


「その驢馬を、料理人に任せてはどうでしょう」


 トングの提案に、オイルレーズンは首を縦に振って答える。


「ふむ。どんな料理になるか、楽しみじゃわい。ふぁっはは!」


 山荘には温泉が備わっており、使用人が案内してくれる。夕餉の仕度が整うまでの間、ゆっくり湯に浸かり、旅の疲れを癒すのだった。

 料理人の腕は確かで、食卓に置かれる「驢馬の山岳風(マウンテンズ‐)焼き肉(バービキュー)」は、格別な逸品となった。他にもいくつか、山の幸を食すことができた。

 豪勢な食事の後、氷薄荷茶(アイスミント‐ティー)を飲みながら、楽しく話して過ごす。

 トングが、また一つ新たな提案を試みる。


「ところでオイルレーズン女史、明日は、オイラと一緒に、トロコンブ遺跡を探索してみませんか?」

「あそこへ入るのに、三百枚の金貨を出す必要があるからのう、探索なぞ、とてもできるものでないわい」

「入場するための金貨でしたら、皆さんの分を、オイラがお支払いします」

「なんじゃと、それは本当か!?」


 治癒魔法で怪我を治して貰ったにしても、「果たして、そこまでのお礼をするものじゃろうか?」と、俄かには信じ切れないオイルレーズンだった。

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