《☆~ 謎の正しい答え ~》
門番の老男性は、少し離れたところ、椅子に腰掛けて待つ。
十分刻が経過するまで、相談するのは構わないけれど、「答えるのは一度」という規則に従わなければならない。
キャロリーヌたちは、全身全霊で謎の答えを考えた。そうして、マトンが最初に口を開く。
「赤ん坊は、やがて自らの足で立つ。成長を続けて、年々背が伸びると、視線も高くなってゆくね。その逆に、門番の老人は、老いを重ねて背中が曲がるから、視線は低くなってしまう。今は違っても、十年後、老人と孫は、視線の高さが同じになるのじゃないかな?」
「あらマトンさん、謎が解けましたわね!」
「いいや違う」
「え、違いますの!?」
キャロリーヌの顔面から、一瞬にして笑みが消える。
その一方で、オイルレーズンは表情を変えない。
「マトンの話した推察は、まったくの憶測じゃわい。門番と孫の視線が、十年後にどうなっておるか、今の時点では、誰も分かりはせぬからのう」
「あっ、そうですわねえ!」
「十年経ったら必ず同じ、そうなると決まっておるのを答えねばなるまい」
「はい。首領さまの仰る通りですわ」
突如、ショコラビスケが大声を発する。
「おうおう、謎が解けたぜ!!」
「そんなに怒鳴るものではない。耳の中が痛くなってしもうたわい」
「こりゃあ済みませんでした」
「謎を解いたのなら、静かに話すがよい」
「へいへい、そうしますから、しっかり聞いて下せえよお」
ショコラビスケは、得意気な表情で話す。
「あの爺さんの孫は、七日前に生まれて零歳だから、十年が経つと十歳になる。その時、俺は六歳だけど、十歳になった奴もいるはず。つまりよお、今の竜族年齢が八歳だったら、十年後に爺さんの孫と同じだぜ!」
「竜族の方々は、五年ごとに一つずつ歳を重ねますから、きっとそれこそ、正しい答えでしてよ!」
再びキャロリーヌの顔面が、笑みで覆われた。
オイルレーズンも、少なからず感心したような気色を見せる。
「ショコラにしては、よく考えたものじゃわい」
「きゅい!」
シルキーも、ショコラビスケを讃えた。
「がっほほほ!! さすが俺さまだぜ!」
「うん。惚けた顔をしているけれど、意外に利口だね」
「マトンさんよお、意外ってえのは、心外でさあ」
「失礼な発言だった。取り消すとしよう」
「がほほ、分かりゃいいでさあ。兎も角、爺さんに答えましょうぜ!」
ショコラビスケが意気揚々、門番の元へ向かおうとした。
しかしながら、オイルレーズンの細い腕に遮られる。
「待つがよい」
「がほっ、なんですかい?」
「ショコラの推察は正しいのじゃが、そのまま答えてはならぬ」
「そりゃあ一体、どういう意味でさあ??」
「現在の年齢が八歳という竜族は、本当におるのか。たといおっても、どこの誰であるか伝えぬことには、あの門番は、正しい答えと認めてはくれまい」
「おう、まったくその通りでさあ! 俺さまの素晴らしい答えを、危うく台無しにしちまうところだった!」
ショコラビスケは、額に冷や汗を滲ませた。
「ですが首領オイルレーズン女史、どう答えればいいのですかねえ?」
「ショコラの知っておる竜族に、八歳の者がおるか?」
「俺の知り合いですかい。シラタマの姐さんは、まだ四歳のはずですし、スティーマビーンズも、俺より三日早く四歳になりやがった。他には……」
珍しく真剣な表情のショコラビスケである。
「がっほ、思い出した! 姐さんの母君は八歳だぜ!」
「ふむ。ならば、その竜族の名を伝えるがよい」
「へいへい、承知でさあ!」
ショコラビスケは、門番の老男性に近寄って話し掛ける。
「爺さん、この俺さまが謎を解いたぜ!」
「答えを言ってみろ」
「おうよ! 俺の昔馴染みに、シラタマジルコという姐さんがいる。大陸一に美しい容姿をした竜族だ。そんな姐さんの母君で、姐さんと同じように美しいマロンジルコ女史は、竜族年齢が八歳でさあ。十年後には、必ず十歳になっているから、爺さんの孫と同じだぜ。どうですかい?」
「確かに、謎の正しい答えだ。惚けた顔でよく考えたな」
「おうおう、俺さまだって、考えることくらいできるぜ! がっほほほ!!」
ショコラビスケのお陰で、五百枚もの金貨を支払わずに済んだ。
老男性が、キャロリーヌに話し掛けてくる。
「お嬢ちゃん、くれぐれも気をつけるのだよ?」
「はい!」
無事に、最初の難関を通過できた。




