《☆~ 謎の待ち構える中腹門 ~》
アイスミント山岳に棲む金竜は、灼熱の業火を吐き、上級探索者ですら怯えるような、最強の討伐対象種と呼ぶに値する、おそろしい凶竜である。その逆鱗は、幻の秘薬と呼ばれる万能の特効薬になるため、まさしく最高級の品目として、古くから探索者の間で広く知られてきた。
山岳の奥地にあるシシカバブ湖が、金竜と遭遇する絶好の箇所だけれど、その辺り一帯は、「大陸の屋根」という言葉が示す通り、グレート‐ローラシア大陸内で最も高くに位置している。しかも、不浄な泥と酷く冷たい氷水が覆う、危険極まりのない地帯である。このため、金竜討伐に挑もうとする者たちは、相見える前に、数多くの難所を通過しなければならない。探索者を最初に迎える難所が、山の中腹に配置された「謎の待ち構える中腹門」という名称の入場門である。
山道を歩きながら、キャロリーヌがオイルレーズンに問い掛ける。
「一体どのような謎が、待ち構えていますの?」
「訪れるごとに異なるのでな、さすがに今は分からぬわい」
「まあ、厄介ですわねえ」
「そうじゃのう」
「謎が解けませんと、山奥へは入れませんのね?」
「いいや違う」
「え、違いますの?」
「たとい謎を解けずとも、一人につき金貨百枚ずつ支払えばよいのじゃよ」
「あら、そうですのね」
オイルレーズンに代わって、マトンが説明を加える。
「入場門を営むのは、アイスミント山岳民族だよ。彼らは、奥地へ入る探索者から金貨を得て、自分たちの領土を保全するために使っている。だから、彼らに渡すお代は、探索者が山から獲物を貰うのに必要な対価という意味になるのさ」
「保全と獲物を得るためでしたら、やむを得ませんわね」
「うん、その通りだと思うよ。なにしろ僕たちは、獲物の肉を食すことで空腹を満たしたり、役に立つ収集品なら街で換金もできるからね」
「要するに、持ちつ持たれつという道理じゃわい。ふぁっははは!」
ここへショコラビスケが横から口を挟んでくる。
「だけどよお、獲物が一つもなかったら、俺たちは酷い損害を被りますぜ?」
「そうかもしれないね。だからこそ、探索者は腕を磨いておく必要がある。獲物を得るだけの実力がないうちは、奥地に入らないに限るってことかな。あはは」
「ショコラや、よく聞くがよい」
「首領オイルレーズン女史、なんですかい?」
「たとい獲物が一つとしてないにしても、アイスミント山岳で訓練を重ね、探索者として腕を上げるのは、獲物を得るのと同じように貴重なのじゃよ」
「おうおう、いいことを教えて下さる! さすが首領さまでさあ。がほほ!」
話しているうちに、一行は入場門に辿り着く。
門番を務める人族の老男性が、オイルレーズンに問い掛ける。
「あんた方は、同じ探索者集団の面子か?」
「そうじゃとも」
「ならば、わしが謎を用意するためのお代として、十枚ずつの金貨、合わせて五十枚を今すぐ支払いなされ」
「ふむ」
オイルレーズンは、巾着の中にあるローラシア金貨、五十枚を数えて渡す。
キャロリーヌが、ふと思った疑問を口にする。
「四人分なら、四十枚ではありませんこと?」
「鳥も一人に数えるのでな、シルキーの分が入っておるのじゃよ」
「あらまあ、知りませんでしたわ!」
驚くキャロリーヌに、老男性が優しく話し掛ける。
「お嬢ちゃん、奥地には初めて行くのかい?」
「そうですのよ」
「危険が沢山あるぞ?」
「ええ、重重に承知しておりますわ」
「それならよい。早速、謎を話そう。十分刻のうちに正しく答えなければ、五百枚の金貨を支払って貰う」
「分かりましたわ」
キャロリーヌは、首を一つ縦に振った。
「七日前、わしに孫が生まれた」
「おうおう、めでたいことだぜ!」
「竜族の若造、黙っておれ」
「がっほ??」
「わしが謎を話している間、誰も口を挟んではならない。そんな無礼をもう一度しでかせば、追加で金貨五十枚を支払って貰う。分かったな?」
「お、おう……」
ショコラビスケが黙り、老男性は改めて謎を話す。
「七日前、わしに孫が生まれた。今は違うが、十年後には孫と同じになる。それはなんだ? さあ、よく考えて、正しく答えてみろ」
こうしてキャロリーヌたちが謎解きを始める。