《☆~ 老魔女の孫娘に関する話 ~》
オイルレーズンは、香草茶を気に入ったらしく、お代わりを希望した。
それに快く応じたキャロリーヌの方は、ドライドレーズンに起きた悲劇に、すっかり心を動かされてしまっており、話の続きを聞かせて欲しいと催促する。
それで老魔女は、三杯目の茶を少し口に含んでから、再び語るのだった。
アタゴー山で産声を上げたばかりの赤ん坊を、そのまま放置しておく訳にもいかないため、取りあえずグリルが、その子を保護することにした。職務のキノコ採りを終わらせ、ローラシア皇国の中央、一等地へと連れ帰るのである。
メルフィル公爵の邸で待つグリルの愛妻、マーガリーナも、最初の子を身篭っているのだった。
当然のことマーガリーナは、朝一番に手ぶらで出掛けた夫が、赤ん坊を抱いて戻ってきたのには驚いた。
それでも落ち着き、グリルの目を真っすぐに見据え、静かな口調で尋ねる。
「あなたさま。その子は、誰の子ですの?」
「パンゲア帝国王、バゲット三世の子だよ」
「へえっ!?」
「実はなあ、今日アタゴーの山中にて、とても込み入った事態があったため、やむを得ず一時的に、この子を預かることになった」
「あらまあ、あなたさまはきっと、アタゴー山で人助けをなさったのですわね?」
「そうだとも。いつもながら察しがよいなあ、マーガリーナよ」
グリルは、山奥で起こった悲劇の一部始終を妻に伝えた。
そのすべてを聞いたマーガリーナは、やはり落ち着いた静かな口調で、彼女の思うところを話す。
「魔女族の争いごとには、決して関わってはならないと思いますけれど、今回ばかりは事情が事情ですし、とても看過できませんわねえ。生まれてすぐに母親を亡くすだなんて、あまりにも不憫ですもの」
「その通りである。人族と魔女族の差異、そのような垣根を一切考えずに、この赤子は、なんとしても守ってやらなければならないのだよ。そうであろう?」
「ええ、そうですとも。よく分かりましたわ。その子を、やがて生まれてくる私たちの子と同じように慈しみ、愛情を注いで育てることに致しましょう」
「おおマーガリーナ、よくぞ言ってくれた!」
こういう経緯で、オイルレーズンの孫娘は、メルフィル公爵家で養育されることになったのである。
それから半年が経ち、マーガリーナは出産した。生まれてきたのは、玉みたいな女子だった。その子にはグリルが、「キャロリーヌ」と命名した。
この日、メルフィル公爵家に訪問者があった。
やってきたのは、老年期に差し掛かった魔女族である。
「あたしの孫娘が、こちらで世話になっておるそうじゃのう」
「な、なんと! そうするとあなたは」
「ふむ。パンゲア帝国の衛兵どもに追われ、アタゴーの山中へと逃げ、そこで女子を出産したドライドレーズンの母、それがこのあたし、オイルレーズンじゃ!」
「えっ、ではやはりあなたは、アタゴーの山中で出産してから果てた、あの魔女の母親なのだと、そういうことなのですね!」
「そうじゃとも。あたしゃ、アタゴー山で孫娘のラムシュレーズンを出産した魔女の母じゃ」
「ラムシュレーズン?」
「魔女族の女子には、生まれる前から命名しておくのが慣例じゃ。あたしゃそれを見越し、あらかじめ決めておいた。その名がラムシュレーズン」
ここにマーガリーナが、魔女の赤子を抱いてきて、オイルレーズンに言う。
「さあさあ、お抱き下さいな」
「ふむ。おお、なんとも清らかな子じゃ!」
オイルレーズンは孫娘を大事そうに抱き、しばらくじっとしているのだった。




