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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》明るみになるパンゲア地下牢獄
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《☆~ 祝いの言葉(二) ~》

 スティーマビーンズが、少しばかり躊躇ためらいながら口を開く。


「おいらは、お前のことが大嫌いで、どうしようもなく憎んでいたけど、今となっては、その滑稽な顔を、ずっと見ていても()()がこないと思える」

「顔がどうのとかってえのは、勘弁してくれねえか?」

「気にしなくていいよ」

「いやあ、俺の方は気になるぜ!」

「えへへへ」


 この二人は以前、ちょっとした諍いから大喧嘩となって長く険悪だった。鷹揚な性格のショコラビスケは、さほど深刻に考えていなかったけれど、スティーマビーンズの方は、いつも立腹していた。そんな積年の怒りも、水鏡アクワミラという魔法の副作用が功を奏し、今ではすっかり消えている。

 三分刻(ミニト)ばかり歩いて、シラタマジルコの実家に到着した。街にあるような邸宅と違い、呼び鈴など気の利いた道具アイテムは備わっていない。


「ごめん下せえーっ!!」


 ショコラビスケが遠慮なく、自慢の大声を放ったところ、建物の中から、顎髭を長く伸ばした人族が姿を現す。


「やかましいぞ、竜族の若造が! 一体なんの用だな?」

「いやあ、シラタマの姐さんがいるか、確かめにきただけでさあ」

「姐さんとな?」

「俺の昔馴染み、シラタマジルコという美しい竜族だ!」

「ははあ、ここの娘か。あの子なら間違いなくいたが、三日前に、ローラシア皇国へ向かったよ」

「がほほ……」


 ショコラビスケは肩を落とす。


「お目当ての子に会えず、残念だったな」

「おうよ。ところで、爺さんの方こそ、なんの用でさあ?」

「儂は、医療メディカル学者(‐スコラ)のアカシャコ‐ラブスタだ。辺境の地で暮らす老人たちを訪問して回り、健康と食事について、相談を受けたり助言を差し上げたりしながら、医療の研究を続けとる」

「がほほ、そうでしたか」

「立派なお方ですね」


 二人は、相手が少なからず偉い人族だと知って、思わず頭を下げた。

 そんな竜族たちを前にして、アカシャコが率直に尋ねる。


「お前さんら、名前と職業は?」

「申し遅れましたぜ。俺の名はショコラビスケ、新進気鋭の(アパンカミング‐)探索者イクスプローラだ!」

「おいらはスティーマビーンズ、ヒエイー山麓西街にある獣骨(ボウン‐)加工所ファクトリで、コツコツ働いています。えへへへ」

「左様か。それで二人とも、これからどうするつもりだな?」

「もちろん俺は、今すぐローラシア皇国へ帰るぜ! なにしろ、シラタマの姐さんに、一分刻(ミニト)でも早く、大切な告白をしたいからなあ。がっほほほ!」

「おいらは、獣骨加工所に戻って、また明日から仕事だよ」

「それなら儂と一緒に行くかな?」

「おうおう、そいつは楽しそうだぜ!」

「是非、そう致しましょう」


 こうして、アカシャコがお馬を駆り、その横を二人の竜族が並走するという、少しばかり奇妙な旅が始まった。

 道中、三人が話題にしたのはパンゲア地下牢獄のこと。アカシャコは、俄かに信じられないと思うけれど、実際に赴いた当の本人であるショコラビスケが話すのだから、疑う余地もなかった。


 ヒエイー山麓西街でスティーマビーンズと別れを告げた後も、アカシャコとショコラビスケの旅は続き、ローラシア皇国の中央門に到着した。


「爺さん、元気でな!」

「ああ、お前さんも達者でな」


 アカシャコは、真っすぐに検問所へ向かう。

 一方のショコラビスケは、「シラタマジルコが護衛官となって、東部国境門での任務に就いている」という情報を得た。

 休む間も惜しむかのように出立し、念願の瞬間を迎える。


「おうおうシラタマの姐さん、やっと会えたぜ!」

「ショコラビスケ、一分刻(ミニト)でも早く、あたいの気持ちを伝えたかった。よくぞ魔石を粉砕し、多くの竜族兵を救ってくれたものだ。どうもありがとう!」

「いやあ、俺はただ、約束を果たしたに過ぎないぜ。がほほ!」

「もう一つ知らせたい慶事がある。あたいは、近いうちに結婚する。パンゲア衛兵団員だったガイで、三年前から交際しているチコリペスカトーレが相手だ」

「がほ!?」


 胸の内で、芍薬ピーアニの白い花が落ちたように感じる。


「祝いの言葉を、述べてくれないのか?」

(コッ)おめでとうコングラチュレイション!」


 不意に涙が溢れ落ちそうになるけれど、懸命に耐え、全身全霊で笑顔を見せ続けるショコラビスケであった。

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