《☆~ アニョンたちの処遇 ~》
悪事を働いた咎で護衛官の部隊に捕らえられた者どもは、夜中のうちに、ローラシア皇国へ連行される。
一等官馬車が壊されたので、キャロリーヌたちは、ウィートの護衛官馬車に乗せて貰った。ローラシア東部国境門の検問を通過して、宿屋に到着する。
眠りに就く前、日頃から身体を鍛えているマトンは、近くの崖から落ちる冷たい水の滝に打たれる。この鍛錬にはシルキーも加わった。先ほどラディシュグラッセの魔法で、あっけなく気絶させられた失態を深く反省している証と言えよう。
宿屋に備わった温泉は、関節痛や神経痛に効くと評判が高い。長年に渡って顎の痛みに悩まされてきたオイルレーズンは、キャロリーヌと一緒に、濃い群青の湯に浸かり、旅の疲れを癒しているところ。
「あたくし、今日は本当に、驚愕の極みでしたわ。すっかりお仲間になってくれたとばかりに思っておりました、あのラディシュグラッセさんたちから、まさか襲撃を受けるだなんて、砂粒の大きさすらも考えませんでしたもの」
「キャロルが気づかぬかったのも無理はないわい。あたしゃ、最初からすべてを知っておったがのう。ふぁっははは!」
「あら、そうでしたか」
アラビアーナの街で、アニョンとキャビヂグラッセが伝書鳩を使い、連絡し合っていた。やり取りは、ラディシュグラッセとジャンバラヤ氏にも伝えられていたに違いない。
オイルレーズンは、アニョンたちが悪い計略を練っていると知りながら、あえて口に出さなかったという。
「つまり、彼女らを泳がせておったのじゃ」
「泳ぎをなさいますのね」
「いいや違う」
「え、違いますの??」
「別の意味じゃよ」
オイルレーズンが、いわゆる「泳がせる」という言葉には、「怪しげな者を監視する目的で、自由に振る舞わせておく」という意味もあるのだと説明した。
キャロリーヌは得心に至るけれど、ふと疑問に思ったことを問う。
「アニョンというお方は、一体どうして、あたくしたちを襲撃なさる計略なぞ、お練りになったのかしら?」
「おそらく、ベイクドアラスカの差し金で、あのような悪事を働きおったのじゃろう。他でもなくキャロルを捕らえるのが目的と、あたしは推察しておる」
「えっ、あたくしを!?」
思わず大きな声を発するキャロリーヌである。もしもアニョンたちの企み通りに進んでいれば、今頃は、自分が縄で縛られていたはずだから。
オイルレーズンは、いつも通り、落ち着いた様子で続きを話す。
「そうじゃとも。帝国へ連れ去った上で、ローラシア皇国に取引を持ち掛けるつもりじゃったに違いない」
「どのような?」
「キャロルの命と引き替えに、失った大勢の竜族兵たちを取り戻したいと、考えておるのじゃろう」
「それが狙いですのね」
「ふむ。明日には、その真相も明らかになるじゃろうし、長々と考えるのもやめじゃわい。兎も角、もう湯から出るとするかのう?」
「そう致しましょう。すっかり逆上せてしまいそうですもの」
身体もよく温まり、部屋に戻って眠るだけとなる。
・ ・ ・
アニョンとラディシュグラッセは、パンゲア帝国王室で重要な地位にあったのだから、通常の罪人と違う特別な扱いを受けた。
皇国宮廷内で、一等護衛官のボイルド‐オクトパスが直々に尋問を行い、彼女たちは全貌を正直に白状する。それは大筋において、オイルレーズンの推察する通りであった。
つまり、帝国王室を牛耳るベイクドアラスカが主謀者で、アニョンたちは、「逆らうと首を跳ねられてしまうため、気乗りしないまま命令に従わざるを得なかった」と打ち明ける。それに加えて、「ベイクドアラスカが生きているうちは、この国に留まっていたい」と熱望したため、しばらくの間、二人には宮廷内で職務を与えられる。
ジャンバラヤ氏と八人の山賊は、中央門の外にある牢獄塔に連行された。外出を許されず、これからの半年、過酷な労働が課される。
この処遇について、キャロリーヌとオイルレーズンは、皇国宮廷に帰り着き、一等管理官のジェラート‐スプーンフィードの口から聞くこととなった。




