《★~ シラタマジルコ中隊長さま ~》
こちらは、ローラシア皇国の中央門から少し離れた場所、各方面へ向かう道の交差した、いわゆる「交通の要衝」と呼ぶに値する賑わった地点。今、パースリたちを乗せた馬車と、ミルクドの騎乗する武装乙女号が通過するところ。
突如、ショコラビスケが叫び声を発する。
「おうおう、馬車を止めてくれ!!」
「がおす!」
馭者を務めるピーツァが指示に従った。
パースリが、怪訝そうな表情で問う。
「どうかなさいましたか?」
「あそこにいる奴らに、姐さんの居場所を知っているか、ちょっと聞いてみたいだけでさ」
ショコラビスケは広場の方を指差す。そちらには、人族が沢山いる中、暗碧色の同じ軍服を着た竜族たち三人の姿があった。
「だから俺は、ここでお別れですぜ。がほほほ!」
「分かりました、どうか気をつけて行って下さい。シラタマジルコさんと、早く会えるとよいですね?」
「おうよ、パースリさんもな。奥さんの元へ、無事に帰り着いてくれよ!」
馬車から降りたショコラビスケが、馭者席の方に声を掛ける。
「ピーツァさんよお、今度また一緒に、厚切り牛肉でも食おうぜ!」
「がおっす!」
武装乙女号の上にいるミルクドとも別れの言葉を交わし、急ぎ広場へ向かう。
茹で団子を売る屋台の前に、若い竜族の男が三人立っており、なにか楽しげに話している。ショコラビスケは、彼らに近づいて、少しの遠慮もなく口を挟む。
「よお奴たち、ちょっとばかり、聞きたいことがあってよお」
「あ、なんだお前は!?」
「おう俺か。この俺さまは新進気鋭の探索者、ショコラビスケだ!」
「たかが探索者の身分で威張るな。それより、なにを聞きたい?」
「兄さんたち、パンゲア衛兵団の竜族兵だろ? その暗碧色の軍服こそが、なによりの証拠だぜ。がほほほ!」
陽気に笑うショコラビスケを前にして、竜族の一人が反論する。
「オイラたち、もう衛兵団員なんかじゃない。この前、パンゲア帝国で大きな混乱が起こり、その機に乗じて、これ幸いと逃れてきたのだからな」
「それならよく知っているぜ。なにしろ、あんたら竜族兵を帝国の土地に縛っていた魔石は、この俺さまの拳で破壊してやったのだからな。がっほほほ!」
「こいつ、見え透いた偽りを好き放題ほざいていやがる。オイラたちを解き放って下さったお方は、勇敢な中隊長さまなのだよ」
「お前のような惚け顔、なんの役にも立ちはしない。あははは」
「そりゃそうだ、わっはははは!」
三人の竜族に笑い飛ばされてしまったけれど、ショコラビスケは、冷静に大人の態度を示そうと、堪えることにした。
「その勇敢な中隊長さまってえのは、もしかすると、シラタマジルコという美しい名前を持ち、大陸一に美しい容姿をした姐さんじゃねえかい?」
「おいこら、中隊長さまを美しいと褒めるのは誠に殊勝な心掛けだが、ちゃんと敬意を表して、シラタマジルコ中隊長さまとお呼びしろ!!」
「おう、承知したぜ。これからは気をつけるとしよう、がほほ」
「へらへらしやがって。しかし、なぜお前のような惚け顔が、お偉いシラタマジルコ中隊長さまを知っているのだい?」
「いやあ、実は昔馴染みでな、ちょっとした関係だぜ。がっほほほほ!!」
誇らしげに大声で笑うショコラビスケである。
そんな彼に対して、軍服姿のうち一人が、疑いの視線を注ぎながらも、丁寧な言葉使いで尋ねる。
「今のお言葉、本当でしょうか?」
「おうおう、もちろんだぜ!」
「そうだったとは知らずに、大変失礼を致しました。それでショコラビスケさまは、オイラたちから、なにをお聞きになりたいのですか?」
「他でもなく、シラタマジルコ中隊長さまが、今どこにおられるかだ」
「そういうことですか」
「おうよ!」
「シラタマジルコ中隊長さまは、ドリンク民国に向かわれたようです。確か、お生まれになった故郷の村へ、お帰りになるとか」
「教えてくれて助かったぜ! お代だ、少ないが受け取ってくれ」
ショコラビスケは、彼らに銀貨を二枚ずつ与える。
「あ、こりゃどうも」
「遠慮なく頂きますです」
「ありがたく存じます」
「それじゃあ、俺は行くぜ!」
「「「道中、お気をつけ下さいませ」」」
三人に見送られ、ショコラビスケが颯爽と駆けてゆく。