《★~ 別行動 ~》
シルキーの脚に結んであった木材製紙を、オイルレーズンが確かめる。
伝書には、パンゲア帝国から逃げ出した竜族兵の数、国境門の付近やメン自治区で起きている混乱の状況などが、細かく記されていた。
「ふむ、ふん……」
眉をひそめて黙り込んだオイルレーズンに、パースリが問い掛ける。
「オイル伯母さん、額に皺を寄せて、どうされました?」
「ふうむ」
ここへショコラビスケが口を挟む。
「パースリさんよお、年寄りを相手に皺の話なんて、しないに限りますぜ?」
「ショコラの方こそ、余計なことは、言わぬのが無難じゃよ」
「へい、承知でさあ」
オイルレーズンがパースリの方に向き直って、先ほどの問いに答える。
「伝書には、目を引く話が書いてあるのでな、あたしは、これからどうするのがよいか、考えておった」
「目を引くというのは、一体どのような?」
「メン自治区内、西部の領域からパンゲア軍が撤退したとな。それがために、帝国に親しい者らは力を失ってしまい、《西メン国》なぞと、手前勝手な独立を宣言しておった軍勢も、すっかり衰えたようじゃ。ふぁっははは!」
高らかと笑うオイルレーズンに、パースリが尋ねる。
「これからボクたちは、どう致しますか?」
「パースリは、大切な家族を残してきておるからのう、任務は終わりじゃよ。ミルクド、ピーツァ、ショコラとともに陸路を南へ進み、アタゴー山麓東門を通って、皇国宮廷に赴くがよい。その先は、念のため、皇国護衛官に守って貰い、急ぎエルフルトに帰国せよ」
「分かりました」
結婚の二日後に家を出て、作戦に参加したパースリは、妻のロッソと、半月も離れ離れになっている。ロッソは、夫の帰宅を待ち侘びているに違いない。
「ミルクドとピーツァは皇国宮廷に留まって、パンゲア地下牢獄のことなぞ、帝国王室の悪事を、洗いざらい打ち明けてくれるかのう?」
「承知しました」
「がおっす!」
横から、ショコラビスケが問う。
「首領、この俺は、なにをやればいいのですかねえ?」
「あたしに聞かずとも、とっくに決めておるじゃろう」
「なんでしたか??」
「戯け。シラタマジルコに会うのでなかったかのう」
「おうおう、姐さんに求婚だぜ!」
「念願だった瞬間も、いよいよとなりますわね?」
「おうよ! キャロリーヌさんたちのお陰でさあ! がっほほほ!」
大喜びするショコラビスケを尻目に、マトンが尋ねる。
「僕とキャロルとシルキーは、どうするのでしょうか?」
「あたしと一緒に、海域からメン自治区へ渡るのじゃよ。ラディシュとアンドゥイユは好きにするがよい」
「了解しました」
「われは、マトンさまについてゆきます」
「だったら、このオレもだ!」
別行動をする方針が定まり、パースリが貸し馬車屋へ向かう。
オイルレーズンは、一等政策官のチャプスーイ‐スィルヴァストウンに宛てた手紙に、パースリたちについて記す。それを皇国宮廷で見せると、彼らが客人として丁重に迎えられるという、いわゆる「推薦状」である。
少しして、パースリが貸し馬車を運んできた。それにショコラビスケとピーツァが乗り込み、ミルクドは武装乙女号に騎乗する。
キャロリーヌたちは、しばらく船で波に揺られ、メン自治区の北部地方、海域に面したスープという小さい街に到着した。
近くの宿屋に、オイルレーズンの一等官馬車を預けてあったので、それに乗り込んで、南に向かって進む。
広い範囲に、戦いの痕跡が数多く残っている。メン自治区を東西に分断していた壁は壊され、沢山の瓦礫が散乱していた。マトンが馭者を務める馬車は、そのように荒んだ街の中を、注意深く通行する。
オイルレーズンが周囲を見渡し、つぶやくように話す。
「争いは、憎しみと荒廃を生むのみじゃわい。キャロルや、この風景を、皇国は当然のこと、他の地でも、繰り返さぬようにせねばなるまいのう」
「はい、その通りだと思いますわ」
夕刻を迎える頃、製麺工房に到着する。ここは、純水系統の魔女族、シェドソーメンの嫁ぎ先だという。
キャロリーヌたちは、店に立ち寄り、極細乾麺を調理して貰う。




