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傾国の白馬ファルキリー  作者: 水色十色
《★PART6 パンゲア地下牢獄の騒動》明るみになるパンゲア地下牢獄
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《★~ 第一女官の造反行為 ~》

 かつてパンゲア帝国王室の後宮において、ラディシュグラッセは、バゲット三世の第四フォース王妃(‐レディ)という高貴な身分にあった。その地位ポジションにあるお陰で、働かずとも一つの不自由すらなく、優雅に暮らせていたもの。

 しかしながら、今から三年と七ヶ月ばかり前のこと、第三王妃のベイクドアラスカが、後宮を牛耳るために巡らした策謀によって、日の光が届かない地下牢獄へ追いやられてしまうという、いわゆる「」に遭う。その際、地下へ向かう道案内を務めるのは、他でもなくミルクドだった。それで、この第一女官に少なからず悪い感情を抱いており、本当に恨むべき相手ではないと承知しながらも、つい嫌味の一つも言いたい。


不嫁後家いかずごけのミルクドクロケットさん、今なお、おひとりの身空ですか?」

「その通りにございます」

「うっふふふ。ずいぶんと、おけになった様子ね」

「はい。魔女年齢では、もう二百十五歳になりますし……」


 辛そうな顔を見せるミルクドである。

 そんな彼女を睨みつけながら、ラディシュグラッセが追い打ちの酷い言葉を考えているうちに、自分の家に到着する。

 この邸宅で出迎えるキャビヂグラッセは、長い間ずっと離れ離れになっていた娘との再会を、大いに喜ぶのだった。その逆に、オイルレーズンに対して、「老いぼれ耄碌ドウティヂのオイル婆さん、ここは宿屋じゃないのだからね。多勢で押し寄せるなんて、まったく迷惑の極みだよ」と悪態の文句を口にする。そうして、一行を広間に通し、毒消し十(カミーリオン)薬草プラントの熱いお茶を準備してくれた。

 たいていの飲食物を嬉しがるショコラビスケが、珍しく苦言を呈する。


「この強烈な風味フレイヴァは苦手だぜ」

「嫌いならば、無理をして飲まずともよい」

「がっほほ~」


 毒消し十薬草のお茶は、健康によいとして知られているけれど、お世辞にも美味とは言えない代物アイテムである。

 独特の香りが漂う中、ミルクドが、とても深刻そうな表情をして、自らの働いた造反行為を告白する。


「五日前の早朝、地下宝物庫の保全部隊で隊長リーダの任にある者が、地下に紛れ込んでしまっている白頭鷲ボールドイーグルを地上へ戻してよいかどうか、部下の衛兵から判断を仰がれた旨を、申し送りしてきたのです。それは、女官の一存で決めてはならない案件でありながら、私は独断で、《鳥の一羽くらいなら構いません》というように返答しました。これが、私のなしている、帝国に対する謀反トリーズンの発端となります」

「ふむ」


 ここにラディシュグラッセが口を挟んでくる。


「あなた、帝国王室の者に捕らえられると、首を跳ねられますわ」

「はい。重重じゅうじゅう承知の上です」

「それなら、せいぜい、その首を洗っておくことね。うふふふ」


 マトンが黙って聞きながら、胸の内では、「この魔女族は、母親に似て、つくづく意地の悪い台詞ラインを口にするね。できれば、妻にしたくないものだ」とつぶやかざるを得ない。

 兎も角、ミルクドによる造反行為のあったお陰で、シルキーが速やかに地上へ出られた。そして、魔石の破壊から半刻のうちに、その成功サクセスを知らせる伝書がシラタマジルコの元に届いた。

 オイルレーズンが二杯目の毒消し十薬草茶を飲み干し、ミルクドに向けて、感謝の思いを伝える。


「礼を言うとしよう。実によい働きを、してくれたものじゃよ」

「いえ、私はただ、可哀想な一羽の鷲を、救ったに過ぎませんから……」


 謙遜の態度を示すミルクドに、今度は、キャロリーヌが優しく話し掛ける。


「あたくしたちが、竜族兵の方々をお救いするための作戦を遂行するに当たり、この上もなく好都合な状況を招いて下さいましたのよ。ですから、あたくしも深い感謝の言葉を、あなたに、お差し上げしますわ」

「いえいえ、滅相もありません!」


 ミルクドは頭を下げ、大粒の涙を落とす。それから、パンゲア帝国で起きている事態について話す。


「第七月の二十四日目から今日に至るまで、大動乱アプヒーヴァルが続いています」

「多くの竜族兵らが、逃亡しておるのじゃな?」

「仰せの通りです」


 パンゲア帝国軍には二万もの竜族がいるけれど、その半数近くが、国外へ脱出したという。これは、キャロリーヌたちの作戦が成功を収めた証である。

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